タバコのペットへの影響

このようなタバコをめぐる状況ですが、喫煙者の傍で生活し、それもヒトより体高の低いペットの受動喫煙による健康被害はなおざりになっているように感じます。ペットの受動喫煙の弊害について日本語や英語でネット検索しますと多くの情報が得られます。多くは呼吸器系の疾患、例えば肺組織の線維化、瘢痕化、前ガン病変からガン病変まで様々です。また、猫が気管ガンを発症したとの情報や、リンパ腫の発症リスクを2倍にするなどです。日本でもペットの受動喫煙による健康被害に関する公表論文をレビューした研究報告⁷⁾が公表されています。これによると、喫煙するペット所有者の猫の口扁平上皮がんや悪性リンパ腫の罹患リスクが高いことが報告されています(図2)


また、高濃度の受動喫煙に暴露された犬のアトピー性皮膚炎に罹るリスクも高いことも報告されています。ペットの受動喫煙の特徴として、サイズが小さいほど影響が大きいことや、タバコの有害成分が床やソファーに集積するため、体高が低いペットほど影響が大きいとされています。さらに鼻が短い犬種(パクなど)では肺がんが、鼻の長い犬種(コリー種など)は鼻腔がんなど、鼻の形状で発生するがんの種類が異なることも指摘しています。

受動喫煙から話題が逸れますが、タバコやニコチンパッチ、ニコチンガム、タバコが溶け出した水などを犬や猫が誤飲・誤食することによるニコチン中毒も知られています⁸)。中にはニコチンガムのように、犬に対して毒性を示すキシリトール(犬の体重1kgあたり0.1g以上の摂取で中毒が起こる可能性)が含まれるものもあります。これらのニコチンを含むものを誤飲・誤食すると1時間以内に嘔吐することが一般的な症状です。その他の症状としては、唾液の増加、下痢、活動の増大と興奮に続く抑うつ、歩行困難、発作、震顫などです。品種により異なるものの、犬は1mg/kgで症状が発現するとされており、致死量は9~12㎎/kgといわれています。ただし、猫には確立された毒性値は公表されていないようです。平均的なタバコには9~30mgのニコチンが含まれており、ニコチンは吸い殻に濃縮されるため、すでに吸ったタバコでも動物にとって非常に危険な状態になる可能性があります。

以上のように飼い主が喫煙者なら、受動喫煙によりペットも健康被害を受けることは明らかです。したがって、喫煙を止めることは最善の方法ですが、喫煙を止められない場合は、子供と同様にペットの健康を守るために、ペットから離れた場所で喫煙することや、換気装置があったとしてもペットの周りで禁煙することを飼い主に伝えたいと思います。また、タバコの吸い殻やタバコを含む廃液はペットが触れないようにすることも重要です。健康増進法の改正により受動喫煙対策が強化されたことを契機にペットの健康を守るためにも禁煙がさらに進むことに期待したいと思います。



1)GBD 2019 Tobacco Collaborators: Spatial, temporal, and demographic patterns in prevalence of smoking tobacco use and attributable disease burden in 204 countries and territories, 1990-2019: a systematic analysis from the global burden of disease study 2019. Lancet 19:2337-2360, 2021.
2)厚生労働省:受動喫煙対策
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html
3)日本たばこ産業株式会社:全国たばこ喫煙者率調査(2018年)
https://www.jti.co.jp/investors/library/press_releases/pdf/2018/20181213_01_appendix_01.pdf
4)厚生労働省:健康日本21(たばこ)
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b4f.html
5)片野田耕太:たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究.
平成27年度厚生労働科学研究費補助金.2016年
6)鈴木一夫:たばこ警告表示に関するアンケート調査結果報告書
  http://square.umin.ac.jp/nosmoke/data/2012packagewarning.pdf
7)川俣幹雄ほか:ペットにも受動喫煙による健康被害は存在するか、またその特徴は何か?-システマティック・レビューの成績から-, 第11回日本禁煙学会学術集会, 2017年11月4~5日(京都)
https://www.menicon.co.jp/company/csr/nosmoking/20171104/poster.pdf
8)The American College of Veterinary Pharmacists:Pet poison control Nicotine & Tabacco https://vetmeds.org/pet-poison-control-list/nicotine-tobacco/


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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