日本とタバコ

まず、日本における喫煙状況ですが、日本たばこ産業株式会社(JT)の2018年全国たばこ喫煙率調査³⁾によると、成人男性の平均喫煙率は27.8%で、1960年代以降のピーク時の83.7%と比較すると、約50年間で56ポイント減少したことになります。また、成人女性の平均喫煙率も1966年の18%をピークに少しずつ減少を続け、2018年には8.7%となっています。このように日本の喫煙率は減少傾向にあるものの、先に述べたように世界的に見ればまだまだ喫煙率の高い国といえそうです。私もヘビースモーカーの一人でしたが、30歳の時に子供が誕生したことを契機に禁煙し現在に至っています。長年にわたり勤務した大学も全学禁煙だったことも影響していると思いますが、学生の喫煙率は私が学生の時代と比べ遥かに低いことを感じています。なお、JTが54年間続けていた全国たばこ喫煙者調査は2018年に終了となっています。理由は個人情報保護を上げていますが、喫煙率の減少傾向の調査成績を公表することがJTの業務に影響することを避けたとの考えも透けて見えます。

健康増進法に基づき制定された「健康日本21」によると、タバコは肺がんをはじめとして喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、膵がんなどの多くのがんや、虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、歯周疾患など多くの疾患、低出生体重児や流・早産などの妊娠に関連した危険因子であるとされています⁴⁾。喫煙する本人は自己責任で喫煙するので自覚を促すしかないのですが、問題となるのが受動喫煙で喫煙者の傍で望まないにも係わらず間接的に喫煙させられることです。喫煙者が吸っている煙だけではなくタバコから立ち昇る煙や喫煙者が吐き出す煙や呼気にも、ニコチンやタールはもちろんのこと多くの有害物質が含まれています。受動喫煙との関連が「確実」と判定された肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)の4疾患について、超過死亡数を推定した結果⁵⁾によると、わが国では年間約1万5千人が受動喫煙で死亡しており健康被害は極めて深刻です。なお、最近普及が目覚しい電子タバコは歴史も新しく、健康被害に関する科学的な疫学成績は不十分であり、今後明らかにされるものと思います。

日本では旧来からタバコは紳士の嗜みとされるとともに、緊張やストレスの緩和などのメリットが強調されてきました。また、タバコには国税の「たばこ税」と「たばこ特別税」、地方税の「たばこ税」がかかっており、1本当たり13.2円、1箱当たり264.9円の税負担となっています。国も地方も緊縮財政になっていますから、タバコにかかる税金は予算の貴重な財源にもなっているのです。このことが日本の禁煙対策にブレーキをかけていると言ったら言い過ぎでしょうか?例えばタバコのパッケージを見ると、日本では50%以上の面積に健康被害に関する文章を記載することがたばこ事業法で規定されています。しかし、海外では写真入りの警告表示でタバコの害を訴えています(図1)


写真そのものはショッキングなもので目を背けたくなるのですが、医療関係者による研究班で実施したアンケート調査では、タバコ警告表示に写真を使うことを多くの日本人が支持し、喫煙を抑制する効果は文章の警告より優れているとしています⁶⁾。しかし、今も日本では写真の掲載がなく文章だけを記載しています。また海外の写真に添えられた文章を読むと、タバコと健康被害との関連を断定的な表現で記載しているに対し、日本の警告文は表示面積が増えたものの科学的な事実をマイルドな表現で記載しているだけです。これでは国が積極的に国民に禁煙を勧めるようには見えず、喫煙者もなかなかタバコを止めようと思わないように感じます。