三毛猫の性別決定因子

一方、白と黒と茶色(オレンジ)の短毛を持つ日本産の三毛猫はほとんどがメスであり、オスは滅多に出現しないことが知られています。したがって、三毛猫のオスはペットショップで1,000万円以上の高い値段がついたとの話も出ています。猫の毛色を決める遺伝子は全部で9種類あります⁴⁾。「黒」と「白」を決定している遺伝子は常染色体上に存在していますが、「茶(オレンジ)」を決定するO遺伝子のみは性染色体であるX染色体上に存在しており、性染色体に依存する伴性遺伝を行います。性染色体はメスの場合XXですが、オスはXYとなるため、O遺伝子を一つしか持つことができず、茶色もしくは黒色しか生まれないことになります。正常な雄は性染色体がXYのため三毛猫は生まれませんが、まれにクラインフェルター症候群と言われる状態で生まれることがあります。クラインフェルター症候群はオスの性染色体にX染色体が一つ以上多いことで生じる症侯群でX染色体が「XXY」となり、繁殖能力は非常に低いとされています。


また性染色体が「XX」と「XY」の両方を持っている場合や、本来はX遺伝子にあったO遺伝子が染色体の一部の切断により、転座して遺伝子の位置が変わってしまった突然変異などが原因でオスの三毛猫が誕生します。出現頻度は3000頭に1頭と言われていますが、クラインフェルター症候群の確率では30000頭に1頭位で極めて珍しい現象と言えます。その希少性が販売価格の高価な原因でもあるのです。

さらに人間の人口性比についても見てみることにしましょう。2020年の統計で見ると、人口全体で126,004千人であり男性61,329千人、女性64,675千人となり、人口性比は94.8%程度となります。男女別の人口を年齢別に見たのが図3となります。


若年層では男性の方が多くなっていますが、50代を境に女性の数が多くなっているようです。その理由としては、少子化が進む中、女性の平均寿命の高さが影響したと言われています。また男性はストレスや病気に弱いとも考えられます。アメリカも日本と同じ傾向にあるものの、インドや中国、パキスタンなど、少子化に転じるのが遅かったかまだ転じていない国では男性の方が多いようです。いずれにしても、生物種によってオスとメスの比率が異なる現象はさまざまな原因の結果であり、生物学的にも獣医学的にも医学的にも興味深いものと思われました。



1)産総研プレスリリース:共生細菌が宿主昆虫をメスだけにする仕組みを解明
2016年9月23日https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20160923/pr20160923.html
2)青木敏之:共生細菌の産生するオス殺し毒素 ライフサイエンス新着論文レビュー
http://first.lifesciencedb.jp/archives/18244
3)琉球大学プレスリリース:オスを抹殺する細菌にあらがう昆虫:抵抗性進化を観測
2018年4月18日
http://www.u-ryukyu.ac.jp/news/554/
4)大滝忠利:三毛猫の雄について 日本獣医学会Q&A  2014年10月20
日  https://www.jsvetsci.jp/10_Q&A/v20141020.html


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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