製剤の規制改革と必要性

今回ご紹介した動物用医薬品の有効期限表示の緩和措置は、近年急速にクローズアップされた規制改革の一環として実施されたものです。その中には製剤の承認審査に標準的事務処理期間が決められたことも含まれています。従来の承認審査は事務局である農林水産省の担当官の仕事次第で決められており、非常に長期間を必要とするものが多々ありました。
よく企業の開発担当の方から承認手続きが遅いとの苦情が出されていました。しかし、標準的事務処理期間の設定により担当官の持ち時間が決められ、迅速に承認が出されることになりました。現在も製剤についてさまざまな規制改革が実施されていますが、未だ諸外国に比べて十分とは言えないところが多いようです。例えば人体用の新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬についても、患者が大勢出ているにも関わらず、海外に比べると使用できるまでの期間が長かったように思います。一応、法律に基づいた特例承認という制度を使用したにも関わらずです。海外では製剤の緊急使用という制度があり、国が認めればすぐに使用が可能なのです。動物用ワクチンについても海外では当たり前の自家ワクチンの使用に関する制度がありません。

つまり、ワクチンの有効性が原因微生物の血清型に依然するような場合、流行している血清型のワクチンが必要になり、承認のために長期間を要することになります。この時、自家ワクチンが可能であれば分離株を用いたワクチンを緊急的に製造し感染症に対処できるのです。これらの事例をみても、わが国の医療用あるいは獣医療用の製剤に関する更なる規制改革は必要だと考えます。


<参考>
農林水産省:動物用医薬品等の承認申請資料のためのガイドライン等
https://www.maff.go.jp/nval/hourei_tuuti/pdf/12-418_20-2860-10.pdf


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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