特定の効能を持つ製剤の承認と規格

特定の効能を持つ製剤について国の承認を得る場合、同じ製剤を安定的に生産し供給するため、「規格及び検査方法」を設定する必要があります。内容として先ずは製剤の性状である、大きさ、形状、色などが設定されます。次に製剤の中の有効成分が入っているかを調べる確認試験が設定されます。

不純物は製造の際、または保存中に生成されたり増加する可能性があるので規格値を設定します。製剤中の有効成分が規格値以内かどうかは、適切な定量法を用いて試験します。その他の一般的試験項目としては無菌、pH、浸透圧などがあります。これらの規格に適合しなければ、製造するたびに異なるものが作られることになり、使用者に安全で有効な製剤を供給することができません。

この規格がある条件(ワクチンなら冷蔵庫の温度ですし、その他の一般薬や抗菌薬は室温など製剤ごとに決められています)で製造した時点からどの位の期間維持できるのかを、経時的に定められた「規格及び検査方法」で試験して、有効期限を設定します。この試験を「安定性試験」といって製剤として農林水産省に製造承認申請する場合は必須の試験項目になります。動物用の一般薬の試験には通常の保存温度で実施する長期保存試験と短期の過酷な保存条件(40℃、湿度75%など)で実施する加速試験があります。通常は3ロットの製剤を用いて試験し、長期保存試験で希望する有効期間のプラス 3カ月で規格値内であるデータを提出することが求められます。つまり、1年間の有効期限を欲しい時は、1年と3カ月のデータを提出するのです。よく有効期限を若干超えた製剤を使用してニュース記事になった時など、国が安全性や有効性に問題ありませんと強気でコメントするのは、口先だけで言っているのではなく、実は承認された有効期限以上のデータを持っているからこそ言えるのです。あくまで試験データに基づいた言葉と言えるでしょう。

新薬の承認申請をする場合、最も時間を要するのは安定性試験ですので、製剤の最終形態(アンプルやバイアルビンなど)が決まった段階から安定性試験を開始することになります。通常は3年間の有効期間を欲しい場合も、企業としてはできるだけ早期に販売したいために1年程度の期間で承認申請を行い暫定的な有効期間を得ます。最終的に安定性試験が終わった段階で、有効期間の事項変更承認申請を行い、最終的な有効期限を得ているのです。

この有効期限は先に述べたように製剤のラベルや外箱に記載されています(図1)


ところで、この有効期限の表示ですが、製剤よって空欄の場合があることをお気づきでしょうか?これは記載を忘れたのでも故意にしているのでも決してありません。国の規制緩和措置により製造企業に3年間プラス 3カ月の安定性試験のデータがあれば、あえて記載しなくても良いとしているためです。3年間も安定な製剤は基本的に多少の期間を過ぎても変質することは考えられず、通常は3年間もあれば全て使用されるはずです。また、販売業者は期限を過ぎて廃棄することを避けるメリットもあるのです。しかし、最近では有効期限が空欄では使用者に混乱を与えることから、企業が自主的に有効期限を積極的に表示することが多くなっています。

ところで食品にも製剤と同じように添付されるラベルに期限表示がなされています(図2)


よくみると賞味期限と消費期限との記載がありますが、皆さんはその違いを知っているでしょうか? 賞味期限が数日も過ぎたといってすぐに廃棄していませんか? 賞味期限とは比較的安定な加工食品に使われ、安全性に問題がなく風味や味に変化のない期間をいいます。したがって、賞味期限が多少過ぎても食品の安全性に問題がないことから食べることができます。一方、消費期限は生鮮食品や弁当などの品質が急激に変化しやすい食品に使用され、安全に食べることができる期間をいいます。したがって、消費期限が表示されている食品は期限内のできるだけ早い時期に消費する必要があります。食品の賞味期限と消費期限の違いを理解して食品ロスにならないように気をつけたいものです。