3.動物に使用した器具・機器の取り扱い

(1) 消毒と滅菌
消毒とは病原微生物の感染性をなくすか、細菌を減少させることをいいます。方法は熱水を用いる物理的消毒法と消毒薬を用いる化学的消毒法があります。一方、滅菌とはすべての微生物を死滅させるか、完全に除去することをいいます。方法は加熱、照射、濾過法などの物理的滅菌法とガスなどを用いる化学的滅菌法があります。

(2) スポルディングの分類
医療で使用した器具・機器の消毒水準の選択に関して、米国疾病管理・予防センター(CDC)は、スポルディングの分類を公表しています(表1)。動物に関するものは、現時点で存在しませんが、スポルディングの分類を応用することが可能です。

① クリティカル器具
無菌の組織や脈管系に入れるもので、手術器具、血管系の器具などが該当します。基本的にこれらの器具は材質等を考慮して高圧蒸気滅菌や乾熱滅菌などの加熱滅菌や、酸化エチレンガス(EOG)などのガス滅菌を選択します。小動物医療で最も使用頻度が高い滅菌法は高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)です。一般的には121℃、20分間の温度および圧力の飽和水蒸気中で加熱することで微生物を殺滅します。

② セミクリティカル器具
粘膜や創傷のある皮膚と接触するもので、呼吸器具や麻酔器具、内視鏡などが該当します。化学的消毒や熱消毒(80℃以上、10分間以上)が必要です。一般には化学的消毒が行われ、高水準消毒薬や中水準消毒薬が用いられます。体温計、眼圧計、水治療タンクなどには中水準消毒薬を用います。

③ ノンクリテイカル器具
創傷のない正常皮膚に触れるもの、および皮膚には触れないものので、聴診器や便器、酸素マスク、膿盆、尿器などが該当します。低水準消毒または洗浄が必要です。


(3)消毒薬の種類
消毒薬には高水準、中水準、低水準に分類されます。高水準消毒薬や中水準消毒薬は細菌芽胞から一般細菌まで幅広く消毒効果を示します。また、低水準消毒薬は一般細菌に消毒効果を示す一方、エンベロープのあるウイルスに対しては効果を示します。なお、消毒薬には、皮膚刺激性などの毒性や引火性などの性質があるものがあり、十分に使用上の注意を熟知して安全に使用するよう心掛けます。消毒薬の種類と使用濃度、消毒対象、使用上の注意を表2にまとめたので参考にして下さい。


① 高水準消毒薬
細菌芽胞が多数存在する場合を除き、すべての微生物を死滅させます。高水準消毒薬には、グルタラール、フタラール、過酢酸があります。消毒薬の皮膚の付着に注意し、蒸気の暴露にも注意します。消毒後に滅菌水で十分に洗浄することを忘れないようにして下さい。

② 中水準消毒薬
結核菌、栄養型細菌、ほとんどのウイルス、ほとんどの真菌を殺滅するが、必ずしも細菌芽胞を殺滅しません。中水準消毒薬には、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、消毒用エタノール、クレゾール石鹸などがあります。次亜塩素酸ナトリウムは炭疽菌に有効とされますが、ポピドンヨードや消毒用エタノールは細菌芽胞に効果がありません。

③ 低水準消毒薬
ほとんどの栄養型細菌、ある種のウイルス、ある種の真菌を殺滅します。低水準消毒薬としては、ベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩などがあります。小動物病院での使用頻度が最も高い消毒薬です。

(4)消毒薬の正しい使用方法
① 化学反応を円滑に進めるために、有機物、界面活性剤、消毒薬同士の混合は行わないようにする(エタノールは例外)。分泌物や血液などは消毒薬の効果を減弱させるので、可能であれば水洗により予め除去してから消毒する。
② 消毒薬の効果を発揮するためには、正確な濃度、接触時間、温度(20℃以上が望ましい)、pH などの諸条件を満たすように使用する。
③ 継続使用により効果が低下するので、消毒薬の特性に応じ適切な間隔で調整する。交換時には容器も清潔にして消毒薬の注ぎ足しをしない。