犬や猫と同じ生活空間を共にしていると、動物に舐められたりするなど飼い主と濃厚な接触があると思われます。犬や猫の口腔内には様々な細菌が常在菌として生息しています。これまで多くの犬や猫の口腔や鼻腔に生息するPasteurella multocidaが問題視され、この細菌により飼い主が感染することの注意が喚起されてきました。2006 年 11 月に多臓器不全の診断で 75 歳の女性が東京都内の医療機関に緊急搬送され、ペットの犬による咬傷による敗血症と診断されました1)。患者の血液培養からCapnocytophaga canimorsusという聞きなれない細菌が分離され、希であるものの死に至るペット由来感染症として注目されました。また、2018 年 8 月 2 日のCNNニュースでは、明確な原因菌は特定されていないものの、48 歳の男性が犬に舐められることにより感染症に罹り、両手両足を切断したことが大々的に報道されました(https://www.cnn.co.jp/usa/35123474.html)。

現在、新型コロナウイルス感染症の蔓延で在宅勤務が一般化し、ペットとの触れ合いの時間が長くなっていると考えられることから、臨床獣医師としてカプノサイトファーガ感染症を再認識することは重要と考え、今回はこの感染症の概要を紹介したいと思います。

ヒトにおける発生頻度は非常に低いが重症化すると死に至る

Capnocytophaga属細菌はグラム陰性の桿菌で、犬や猫の健康な歯肉の細菌叢の構成細菌といわれています(図1)。ヒトやペットの口腔内常在細菌で現在 9 菌種が知られています。その内、犬や猫に常在するのは、C.canimorsus、C.cynodegmi及びC.canisになります。本菌は通性嫌気性といって空気があってもなくても増殖できる細菌ですので、口腔内は生息するには良い環境といえます。上記の3菌種の国内の犬や猫の保菌率は、C.canimorsusが犬74〜82%、猫57〜64%、C.cynodegmiが犬86〜98%、猫84〜86%、C.canisが犬で54%と言われており、ほとんどの犬や猫の口腔内に生息していることから、飼い主は常に本菌に曝されていることになります。なお、これらの細菌は常在細菌ですので、犬や猫が症状を示すことはありません。


図1:Capnocytophaga canimorsus のグラム染色象
   http://www.iph.osaka.jp/s009/20200107104149.html

ヒトにおける本感染症の発生頻度は非常に低いといわれています。例えばオランダの報告では年間100万人あたり0.67例です。日本国内の調査では、1993年から2017年までに93症例(死亡 19 例、致死率約20%)です。この内、直近 5 年間で 55 症例であり、近年患者数は増加傾向にあるようですが、本感染症に対する関心の高まりと検査体制が整ったことにも関係があるようです。患者は中高年層に多く、40 歳以上が 9 割以上を占めます。糖尿病や免疫抑制剤の投与、あるいは脾臓摘出など明らかな免疫力の低下要因を有する患者が半数を占めていますので、基礎疾患をお持ちの方は特に注意する必要があります。興味あることに男女比は圧倒的に男性が多いとされています。感染原因は、犬による咬掻傷52例、猫による咬掻傷 20 例、犬や猫との接触歴のみ 18 例、不明 3 例となっており、犬との接触歴が確認された例が55〜84%と、猫より多いようです。

主に犬や猫による咬傷・掻傷からヒトは感染しますが、傷口を舐められて感染した事例も報告されています。なお、ヒトからヒトへの感染の報告はありません。潜伏期は1〜14日とされ、その後、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などを前駆症状として重症化するようです。重症化した例では敗血症を示すことが多いですが、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)、肺血症性ショックや多臓器不全に進行して死に至ります。図2に患者が鼻や唇にチアノーゼを示し、両側の足に重度の壊死が認められていることを示します2)


図2:Capnocytophaga属菌感染症の症状2))
鼻と唇にチアノーゼ(上)、両側の足に重度の壊死(下)