2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1

心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。

これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。

本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 15 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。

第 14 回である今回は「猫の心筋症の診断」の「心臓超音波検査」の項にある左心房の評価法と動的な左心室流出路閉塞の評価法について紹介する。

左心房

左心房のサイズの評価は右傍胸骨短軸断面および長軸四腔断面において行うことができる。

右傍胸骨短軸断面において左心房のサイズを評価する場合は、左心房径/大動脈径(LA/Ao)を計測する。LA/Aoは収縮末期(左心房のサイズが最大のタイミング)あるいは拡張末期(左心房のサイズが最小のタイミング)において計測する(どちらのタイミングでの計測をより推奨するかについてはステートメントにおいて明記されていない)。LA/Aoの基準範囲は収縮末期に計測する場合と拡張末期に計測する場合で異なる(エビデンスレベル 中)。


図1 右傍胸骨短軸断面(大動脈-左心房レベル)の2D画像を用いたLA/Aoの計測(肥大型心筋症[HCM]フェノタイプの猫)


本図においては収縮末期のタイミングで計測を行っている(LA/Ao 1.9)。大動脈径の測定方法はいくつかあるが、本ステートメントにおいてはどの測定方法を用いるかについては明記されていない(本図においては無冠尖と左冠尖の境界線を通るようにキャリパーを設定している)。

右傍胸骨長軸四腔断面において左心房のサイズを評価する場合には、収縮末期(左心房のサイズが最大のタイミング)において左心房径を計測する(エビデンスレベル 中)。


図2 右傍胸骨長軸四腔断面の 2D画像を用いた左心房径の計測(健康な猫)


左心房径を計測する際はキャリパーを心房中隔の真ん中から左心房壁までに位置するように設定する(左心房径 14.2 mm)。

左心房の内径短縮率は左心房機能の指標であり、LA/Aoの計測に用いる右傍胸骨短軸断面において記録したMモード画像を用いて計測する2


図3 右傍胸骨短軸断面(大動脈-左心房レベル)のMモード画像を用いた左心房の内径短縮率の計測(HCMフェノタイプの猫)


LA/Aoの計測に用いる右傍胸骨短軸断面(大動脈-左心房レベル)において大動脈が二等分されるようにMモードのカーソルを設定してMモード画像を記録する。収縮末期に左心房の最大径(17.5 mm:実線)、拡張末期に左心房の最小径(16.0 mm:点線)を計測する(計測のタイミングなどの詳細は本ステートメントには明記されていない)。その後は左心室の内径短縮率と同様に左心房の内径短縮率を計算する(左心房の内径短縮率 8.6%)。

左心房内の“もやもやエコー”は、左心房機能の低下や左心房内の血液のうっ滞と関連している。左心房の拡大を伴う猫においては、左心耳内に“もやもやエコー”や血栓が存在しないかを評価することや、左心耳内の血液のうっ滞が示唆されないかを左心耳血流を用いて評価することが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。


図4  パルスドプラ法を用いた左心耳血流の評価(HCMフェノタイプの猫)


本ステートメントにおいては左心耳血流の評価法についての詳細は明記されていない。左心耳血流は、パルスドプラ法のカーソルが出来るだけ左心耳血流に平行になるようにプローブの当て方を調節した右傍胸骨短軸断面(大動脈-左心房レベル)あるいは心尖部二腔断面を用いて一般に評価される3。本図においては調節した心尖部二腔断面を用いている。パルスドプラ法のゲートを左心耳の入り口に設定すると、1 心周期あたり合計 2~4 個の上向きあるいは下向きの波形が記録される(本図においては上向き 1 個、下向き 1 個の合計 2 個)。すべての波形の中の最高速度の絶対値が 0.25 m/sec以下であれば、左心耳内の血液のうっ滞が示唆される(本図において最高速度の絶対値は 0.87 m/sec)3