2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1

心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。

これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。

本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 15 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。

第 13 回である今回は、「猫の心筋症の診断」の「心臓超音波検査」の項にある左心室の壁と内腔の評価法について紹介する。

左心室の壁厚

左心室の拡張末期壁厚を 2D画像(Bモード画像)あるいはMモード画像から計測する。ただし、2D画像とMモード画像における計測値は異なる可能性があり、両者に互換性があるとはいえない。なお、どちらの方法をより推奨するかについては本ステートメントには明記されていない。左心室の壁厚の最終的な計測値には、少なくとも 3 心拍分の計測値の平均値を用いることが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。

Mモード画像から左心室の壁厚を計測する場合には、左心室の短軸の 2D画像を用いてMモード画像を記録することが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。心室中隔と左心室自由壁の拡張末期壁厚をleading edge-to-leading edge法により計測することが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。


図:Mモード画像を用いたleading edge-to-leading edge法による心室中隔と左心室自由壁の拡張末期壁厚の計測(健康な猫)
心室中隔については、右心室側の心内膜面(赤線)を計測に含み、左心室側の心内膜面を計測に含めない。左心室自由壁については、内腔側の心内膜面を計測に含み、心膜を計測に含めない。なお、「どのタイミングが拡張末期であるか」についてはステートメント上に明記されていない(本図においてはQRS群の始まりのタイミングを拡張末期としている)。



Mモード画像を用いて左心室の壁厚を計測する場合には、①左心室壁の限局性の肥厚を見逃す可能性がある、②Mモードのカーソルが左心室の乳頭筋を通ると左心室の壁厚が過大評価されてしまう、という注意点がある。

2D画像から左心室の壁厚を計測する場合には、①少なくとも 2 つの右傍胸骨断面(長軸断面と短軸断面)を描出して、②それぞれの断面において心室中隔、左心室自由壁のそれぞれの最も厚い部分の拡張末期壁厚を計測することが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。心室中隔の壁厚についてはleading edge-to-trailing edge法、左心室自由壁の壁厚についてはleading edge-to-leading edge法により計測することが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。なお、壁厚を計測する部分において心内膜の著しい肥厚が認められる場合には、心内膜を計測から除外することが推奨される(エビデンスレベル 低、推奨クラス I)。


図:右傍胸骨短軸断面(乳頭筋レベル)の 2D画像を用いた心室中隔(leading edge-to-trailing edge法)と左心室自由壁(leading edge-to-leading edge法)の拡張末期壁厚の計測(健康な猫)
心室中隔については、右心室側の心内膜面(赤線)も左心室側の心内膜面も計測に含める。左心室自由壁については、内腔側の心内膜面を計測に含み、心膜を計測に含めない。なお、「どのタイミングが拡張末期であるか」についてはステートメント上に明記されていない(本図においては左心室の内腔が主観的にみて最大となるタイミングを拡張末期としている)。




2D画像を用いると左心室壁の限局性の肥厚を見逃しにくくなる。ただし、画像のフレームレートが低いと拡張末期のタイミングのフレームを逃してしまうため、画像のフレームレートは十分高く(> 40 Hz)なるようにする。