1999年から農林水産省により家畜の薬剤耐性モニタリング体制(対外的にJVARMと呼ばれています)が確立され、家畜由来大腸菌や腸球菌、それに病原細菌の薬剤耐性に関する経時的なデータが公表されています1)。これにより医療分野に対抗する経時的な動物由来耐性菌に対する全国的な調査体制が整備され、毎年、薬剤耐性モニタリング成績が英語や日本語で公表されています。

JVARMが開始されて20年を超え、各種データが蓄積されてきたことから国内外で高い評価を受けているところです。しかし、獣医師の治療対象である犬や猫などの伴侶動物に関する調査体制は世界的にもごくわずかしか確立されておらず、残念ながらJVARMも対象としていませんでした。ところが、2016年に公表されたわが国の薬剤耐性対策アクションプランの一環として、2017年度から伴侶(愛玩)動物も調査対象に加えられ、世界的に最も進んだ動物の薬剤耐性モニタリング体制が稼働しています2)。そこで、今回はJVARMのデータから犬や猫由来大腸菌の薬剤耐性状況を紹介したいと思います。

健康な犬と猫由来大腸菌の耐性率は低い

これまでJVARMで公表されたデータは、病気で小動物病院を訪れた犬や猫の検体から分離された薬剤耐性菌の成績でした。病気の動物では抗菌薬が使用されている可能性があり、日頃から飼い主の皆さんが直接的に接する健康な伴侶動物の実態を現わしておらず誤解を生む可能性がありました。そこで、2018 年度から健康な犬と猫から分離された大腸菌の薬剤耐性モニタリング調査が開始されました。腸管内常在性大腸菌はほとんどのヒトや動物の糞便中に棲息していています。したがって、使用される抗菌薬に日常的に暴露されているため、薬剤耐性状況を知る指標細菌と呼ばれており、世界各国のモニタリングで調査対象となっています。

大腸菌の調査成績は国内の動物のみならずヒトと比較することが可能で、また世界的な比較もできるものです。検体は健康診断やワクチン接種のために小動物病院を訪れた健康な犬と猫から採取したもので、日本獣医師会の協力により地域に偏りがないように全国から収集したものです。1動物病院あたり犬と猫各1検体を飼い主に対するインフォームドコンセントを実施して調査しました。

その結果を疾病の犬と猫の成績と比較したものを以下のに示します。図の下に記載されたアルファベットは供試した抗菌薬の略号です(注意参照)。犬と猫ともに青は健康動物由来大腸菌を指し、赤は疾病動物由来大腸菌を示します。見ていただくとお分かりのように犬と猫由来大腸菌のいずれもが疾病由来大腸菌で高いことを示しています。特に以前ご紹介した日本獣医師会が実施した小動物病院における抗菌薬の使用実態調査で使用量の多かったセファロスポリン系薬やペニシリン系薬などのβ-ラクタム系抗菌薬やフルオロキノロン系薬の耐性率が高いことが分かり、抗菌薬の使用実態を反映したものになっています(https://media.eduone.jp/detail/10493/)。なお、棒グラフの星印は統計学的に有意差があることを示しています。


犬由来大腸菌の薬剤感受性


猫由来大腸菌の薬剤感受性