これからの獣医療はどうなっていくのか。
そして、獣医師は今後どのように学んでいくべきか。

インタビューシリーズ「獣医療のミライ」では、
各分野で活躍する新進気鋭のスペシャリストたちに、
研究や臨床から得た経験をもとにした
未来へのビジョンや見解を語っていただきます。

今回は、求人情報誌 Hippo-Works 特別編として、酪農学園大学 獣医学類長 兼 伴侶動物外科ユニット 教授の井坂光宏先生にお話を伺いました。

先生について教えてください

―獣医師を目指したきっかけを教えてください。
 小学生の頃に犬を飼っていたこともあり、将来は動物に関わる仕事に就きたいなと考えていました。でも、初めて獣医師という職業を知ったのは高校3年生のときです。獣医師はかなり主体的に動物と関わることができ、職域も広い職業だと思い、少しずつ志が定まっていきました。実家が自営業だったこともあり、いずれ自分も独立することを意識していたので、本格的に獣医師を目指すことにしました。

―先生は、循環器・運動器などで多くの論文を書かれていますよね。どのような学生時代を過ごされたのですか?
 実は高校生まではあまり真面目に勉強していませんでした(笑)。なので、酪農学園大学へ入学してから全てをやり直したいと思い、小学6年生のドリルや中学の基礎的な勉強から復習しました。それと同時に、『THE CELL』という 1,000 ページ以上もある分子生物学の英語の本をまるで文庫本のような感覚で毎日持ち歩いていました。当時の基礎系の先生に勧められたのですが、いきなり英語の本は読めないので辞書を引きながらでしたね。その後、知人の紹介で金本勇先生の茶屋ヶ坂動物病院(愛知県名古屋市)へ実習に行く機会をいただき、そこで小動物臨床の世界に触れました。金本先生は、動物病院を開業して小動物臨床の研究もしながら、医学部の臨時講師もしていた循環器のスペシャリストです。先生の下で獣医師の世界の奥深さを知り、私が今の分野を目指す土台が出来たと思っています。臨床はテクニックだけではなくて、解剖学も生理学も薬理学もある。さまざまな知識をどんどん吸収するのが楽しかったですね。
 米国の獣医療は日本より進んでいると昔から言われていたので、私もいつか米国へ行きたいなと考えていたのですが、『THE CELL』や『Small Animal Medical Diagnosis』を、辞書を片手にひたすら読んだことで、次第に他の英語の本も読めるようになっていました。会話の勉強はVoice of America(VOA=米国のラジオ放送)をずっと聞いていましたね。VOA は、非ネイティブの英語話者に向けて、わりと簡単な英文法で話しているラジオ放送です。スピードも遅めなので“ 聞いて、シャドーイングする” を繰り返して、毎日通学で自転車を漕ぎながらずっと1人で喋っていました(笑)。これで英語力が身についたかなと思い、大学5年生の頃に思い切って米国の研修生にいくつか応募してみたんですが、そのときは願いが叶いませんでした。その後、大学院生になって獣医師として働いているときに、北海道大学医学部心臓外科で研修を始めました。当時はまだ人医療の研究をしようとする獣医師はマイノリティーでしたが、この人医療での経験もまた今の研究の土台になっていますね。


アメリカ時代 フィリップ・フォックス氏と
Philip Fox,DVM, MSc, DACVIM/ECVIM
(Cardiology), DACVECC


―研究を続ける理由は?
 臨床をしていると皆さん分からない症例や事例に遭遇します。いくら探しても調べても本にもどこにも書いていないことにぶつかるんです。私の場合は、目の前にいる動物を助けながら、“ 無いなら自分で論文にすればいい” と思ったんです。学部生の頃から発表の資料や卒業論文もなるべく英語で書くようにしていたので研究発表も英語で書きました。せっかく、コミュニケーションツールとして英語が使えるようになったのに、日本語だけを使い続けたらその時点で視野が狭くなりますよね。学部生時代の努力がここで大いに役立っています。論文のまとめ方は、東京医科歯科大学医学部 薬理学研究室のジャーナルクラブに参加して徹底的に学びました。論文1本に対して別の論文や、生理学、解剖学などの成書といわれる本を何冊も読む。それを20 本、30 本とひたすら繰り返していました。初めて米国に行くことができたのは、こうした経緯で人医療での人脈も築くことができたからです。その後、アーカンソー子供病院で研究員に就いたのをきっかけとして、4年間であちこちの動物病院へ実習しに行きましたね。


アメリカ時代 デビッド・シッソン氏と
D.David.Sisson, DVM,DACVIM (Oregon State University)