学生の皆さんにメッセージをお願いします
―今の学生たちに向けて。獣医師として、社会人として必要なことはなんでしょう?
私は、入学してきた新入生に必ず聞いていることがあります。「獣医師の(経済産業省の)業種区分を知っていますか?」と。医療業と思っている学生がとても多いのですが、違います。獣医師はすごく頭を使うサービス業です(正式には“ 技術サービス業”)。サービス業ですから、挨拶やコミュニケーションも必要です。初対面の飼い主さんへの説明の仕方や伝達方法のスキルもある程度求められます。SNS ばかり見ていないで、リアルに人や動物とどのように向き合うか、どうしたらきちんと心が通うのかなって考えてほしいですね。
動物自体をしっかりと診るためには飼い主さんとのコミュニケーションが欠かせません。治療を提案するときに、飼い主さんの生活スタイルや経済力などのバックグラウンドを知ることは重要です。選択肢が多すぎると迷わせてしまうし、逆に絞り込んだ治療が有効でないと転院してしまうかもしれません。ですので、治療の選択肢にも優先順位をつけて説明し、その治療で改善しないときでもまた飼い主さんが相談しにきてくれる、そういう関係づくりが必要になってきます。特に犬は飼い主さんの感情を鏡のように映します。その飼い主さん達と目線を同じにして、まず飼い主さんとの関係性を良くしなければ、動物ともコミュニケーションは取れません。
また、コミュニケーションの重要性は職場の仲間に対しても同様です。獣医療はすべてを1人で見ることはできないので、チームでヒューマンエラーがあったときにそれを罵倒するような表現をしてしまうと、その人のエンゲージメントは下がっていきます。そうすると、人は改善をしなくなり、そこからチームの生産性も下がってしまいます。そんなことをしていたら、獣医療自体のレベルが低いと思われてしまいますよね。
そうならないためにも、仕事でもアルバイトでも1箇所でなるべく長く勤める方がいいですよ。なぜかというと、新人としてコミュニケーションから学び始めて、数年経つと今度は自分が後輩に教えていくことになっていきますよね。自分とは違う他人へどのように伝えるか。当然、相手を変えることはできませんから、“ 伝える” と“ 伝わる” の違いを知ることが大事です。何度言ってもできない人がいるのであれば、それは伝える側が言い方を変えていきましょう。例えば、後輩に「これすぐやって」と指示をするとして何分くらいで実施することでしょう?「10 分後にチェックするからその間にやって」と言い換えてみるとか。そうすることで、指示を明確に提示する訓練になります。
社会人人生を自分1人だけで楽しむのも悪くはないかもしれないけど、もっといろんな異業種の人と交流したり、楽しく遊んだりしたいんだったら、コミュニケーションを学ぶところから始めていきましょう。
―就職活動を始める学生に向けてアドバイスをお願いします。
これから就職活動をしてなんとなく選んで、なんとなく決まって、働いてみたら自分に合わなかった…としたら、それは誰のせいでしょうか?実際の働き方や職場環境が見抜けないのは情報の集め方が足りなかったのでは?他の病院と十分に比較しましたか?うまくいかないことを周りのせいにするのは間違いです。不満のある人生になります。何をするにも自分の責任で決めていくと人生は何倍も楽しくなります。社会人になるってそういうことです。誰かのせいにしない気持ちでいれば、すごくいい経験がいっぱいできますよ。他責にせず、自責で生きましょう。そうしたら楽しく生きられます。覚悟があればなんでもできるんですよ。
とくに学生のときにできる限りいろんな失敗をしてください。若いから許される失敗もあります。今なら「だって学生だから」で多少は済みます(笑)。
自分が何かしたいと思っても、臆病になるとブレーキをかけてしまいがちです。どうしようかなとすごく悩むこともあるかと思いますが、本当のミスはきっと数パーセントぐらいです。一番ダメなのは、“ 何も動かないこと”。動くから成功や失敗があるんです。もし就職で失敗したとしても、次を探せばいいんです。それにいくつもハードルがあってうまくいかないなというのも、それは人生です。“ 成功の反対は失敗ではなくて、何も動かないこと”(動かないと能動的に決めたことは良いよ。時にはそういうときもあるので♪) だと私は思います。
井坂 光宏
- 酪農学園大学 獣医学類長 兼 伴侶動物外科ユニット 教授
アジア獣医内科学 循環器専門医(設立専門医)
日本獣医循環器学会 評議委員
【経歴】
酪農学園大学卒業後、酪農学園大学附属動物医療センター研修医を修了。
北海道大学大学院医学研究科循環器外科にて博士(医学)過程修了。
その後、アーカンソー子供病院小児心臓外科にて研究員、
神奈川の民間動物病院での副院長を経て、現職に着任。