米国と日本の獣医学教育の違いや、獣医師の理想のキャリアプランとはどのようなものだとお考えですか?

―米国と日本での獣医学教育の違いはどんなところですか?
 学問としてそれぞれの専科で学ぶ内容はかなり似ていますが、基礎の学習にはかなりの違いがあると感じました。米国の獣医大学では、外科であれば世界的な教科書と言われる『SMALL ANIMAL SURGERY』や『VETERINARY SURGERY』などを使って勉強しています。内科であれば『Small Animal Internal Medicine』や『Textbook of Veterinary Internal Medicine』です。専門医のレジデントまでずっと勉強に使うような本です。これらを入学後から使い続けることによって専門的な知識が自然と頭に入ります。日本だったら小動物外科専門医試験を受験できるレベルの内容を大学生から学習するようなものです。ですから、今後日本の獣医業界は、専門分野教育に注力したほうがいいのではないかと考えます。専門医を増やそうということではありません。日本では、専門医とジェネラリストの区分については明文化されていません。例えば、米国の人医療ではファミリードクター(家庭医)が病気の治療方法だけではなく患者のことをすべて把握できるようにしているので、一次診療(以下、一次)の病院では内科や皮膚科等の専科という概念はありませんが、その一次で疑わしいものがあればすぐに専科に紹介します。日本では、病気になったら患者自身が何科へ行くか考えますよね。行った病院でどうしても解決しなければ総合病院へ行って全部の検査を受ける。一次の病院で横断的に診られる医師が少ないんだと思います。専科それぞれの視点を線で繋いで対応ができる施設は国内にはまだ少ない状況です。そして、獣医療も一緒で、例えば一次の動物病院に専門医がいたとしてもそれは個人の先生の頑張りであって、次世代が育つ環境はまだまだ整いきれていません。


―獣医師の“ 理想のキャリアプラン” とはどんなものでしょうか?
 今の獣医大学教育は、コアカリキュラムを主軸としていることから、卒後の臨床現場で活かせる知識を大学の6年間だけでで学ぶには限界があります。ですから、卒後も働きながら現場で学び続けていますよね。卒後にどう学習していくのかはその人次第になっているので、大学と卒後教育をする機関が、より強く連携していけると今後の獣医療の発展にも大きく影響するのではないかと思っています。
 就職活動をしている学生たちに「社会人になったら職業人生の方が長いから、資格を取るか取らないかも含めて、取るならどういう獣医師になりたいの?」とよく質問しています。小動物以外にも産業動物、あるいは公務員という選択肢もあるし、どれかに決めているのなら「君はどう働いていきたいと思う?」とさらに質問します。何がいいか悪いかではありません。例えば、臨床現場での自らの専門性を極めたいのか、指導する立場になって働きたいのか、または二次診療病院の外科の勤務医として執刀したいのか。それを本人がしっかり認知しているか、情報や感覚が間違っていないかを明確にさせてからアドバイスします。学生から「就職活動で実習したいから良い動物病院をどこか教えてください」と単純に聞かれても答えません。答えられないんですよ、だって君にとっての“ 良い病院” がどんな病院かはわかりませんから。こういったことは学校の中だけにいたら答えが見つからないと思います。学会に行く、病院の実習に行くなどさまざまなところから情報収集をして、やはり現場を見に行くことが一番です。道にまだ迷っているのだとしたら、見に行ってみたらいいと思います。迷う時間がもったいない!