■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の38月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

小動物の臨床に係わる獣医師の皆様は、毎年、狂犬病予防法に則って、犬に対する狂犬病ワクチンの注射に携わっておられることと思います。このような獣医師の地道な取組のお陰で、日本は1958年以来、狂犬病の無い世界でも稀有の国になっています。この狂犬病ワクチン注射について、しばしば有害事象(因果関係を問わず、ワクチン接種後の好ましくない事柄)が報告され、死亡例も毎年確認されていることから、臨床獣医師の中にはワクチン注射を躊躇する方がいることも聞いています。日本における狂犬病ワクチン注射に伴う有害事象とアナフィラキシーの発現状況については、すでに文献情報¹⁾があります。

結論としては、わずかな死亡例があるものの日本で使用されている狂犬病ワクチンは、それ以外の犬用ワクチンに比べても安全性が高く、ワクチンの種類は異なるものの諸外国の狂犬病ワクチンにおけるアナフィラキシーの報告よりもはるかに低いものでした。このような安全性を高めた狂犬病ワクチンに至るまでには、様々なワクチン開発に関する歴史が深く関与しています。そこで今回は日本における動物用狂犬病ワクチンの変遷を、元動物医薬品検査所長であった平山紀夫先生の総説²⁾を中心に紐解いてみたいと思います。