■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の36月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

猫では一般的な病気で、主な死因でもあるのが慢性腎臓病(CKD; chronic kidney disease)です。アニコム損保による調査によると猫の平均寿命は年々伸びており、2019年度で14.1歳といわれております¹⁾。その死亡原因を保険金請求内容から類推すると、0歳で多くないものの、5歳での請求割合は31.0%、10歳で29.6%、15歳で41.7%と泌尿器疾患が最も多くなっています(図1)


図1:猫の年齢ごとの死亡原因(死亡30日以内の請求割合)¹⁾


このように高齢の猫の大半が患っている病気がCKDといえそうで、まさに国民病(?)とも言えるものです。CKDは腎臓の機能の3分の2くらいが失われてようやく症状が現れるため、早期発見が難しい病気といわれています。CKDを根本的に治療する方法がなく、残っている腎臓の機能を維持させ、病気の進行を遅らせることが中心となっています。このように小動物を専門とする獣医師にとって、非常に厄介な猫のCDKに対して有効な治療法になる可能性のある研究が日本の基礎医学者からなされ注目されています。短期間で治療薬開発に関するクラウドファンデイングで1億円以上の研究資金を集めたことでもニュースで話題となりました(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021080700627&g=soc)。そこで今回は猫のCKDの根本的な治療法に期待が膨らむ研究について紹介したいと思います。