臨床症状と診断

ヒトの臨床症状は基本的にジフテリアと類似しています。呼吸器感染の場合には、初期に風邪に似た症状を示し、その後、咽頭痛、咳などとともに、扁桃や咽頭などに偽膜形成や白苔を認めることがあります。重篤な症状の場合には偽膜により呼吸困難を示し、死に至ることもあります。また、呼吸器以外(頸部リンパ節腫脹や皮膚病変)の感染例も報告されています。なお、感染動物の症状も基本的にヒトと同じで、風邪様のくしゃみや鼻汁などの症状や皮膚に化膿を起こすことがあります。また海外での免疫不全患者の感染例では、飼育する犬が3年間にわたり慢性の口唇潰瘍が認められていました(図2) ⁴⁾。


▲図2.患者が保有する犬の慢性口唇潰瘍
Lartigue M et al. J Clin Microbiol 43:999-1001, 2005.



しかし、ドイツの感染例のように外見上健康な飼育する猫からC.ulcerensが分離されており、先に示したように多くは不顕性感染しているようです(図3)


▲図3.患者が飼育する猫で無症状ながらC.ulcerensを分離
https://www.wormsandgermsblog.com/2011/09/articles/animals/cats/corynebacterium-ulcerans-infection-from-a-cat/




診断はヒトではジフテリアと類似した症状を示すため、ジフテリアとの鑑別が重要となります。専門機関で培養検査や遺伝子(PCR)検査が行われます。一方、症状を示す犬や猫を診察した獣医師は検査材料を臨床検査会社に依頼し、「コリネバクテリウム属菌」との結果が出れば、「サンプリング時の注意事項及び後の検体処理方法について」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/dl/qa2018_01.pdf)に従って国立感染症研究所等で同定してくれます。

本感染症は抗菌薬による治療が有効であるとされています。国内においては、ヒトの症例でマクロライド系抗菌薬の使用による回復例が報告されています。先に紹介した大阪府で分離されたC.ulcerensは多くの抗菌薬に感受性を示しており³⁾、感染した動物に対してもマクロライド系薬は有効と考えられます。ジフテリア・トキソイド(ワクチン)は菌種が異なるものの毒素が同じであるためヒトのC.ulcerens感染症に対しても有効であると考えられます。