CMhhのヒトにおける感染報告

今回の感染事例で病原体となったCMhhですが、16S rRNA遺伝子による系統樹解析の結果を見ると、Mhfと近縁であると共に犬のヘモプラズマ感染症の原因とされるMycoplasma haemocanisとも近縁であることがわかります(図2)


▲図2.Mycoplasma spp.の16S rRNA遺伝子による系統樹解析


今回の事例を猫ヘモプラズマ感染症と関連づけた理由は、犬ヘモプラズマ感染症の発生状況にあります³⁾。本症の多くは不顕性感染であり、脾捻転の犬の脾臓全摘出術後に発症したり、治療のために免疫抑制剤を投与後に発症するなど免疫不全との関連が示唆されています。またフィラリア予防のために来院した外見上健康な犬 536 頭を用いてヘモプラズマ感染を確認したところ 16 頭(3.0%)が陽性を示し、その内の 5 頭(0.9%)がM. haemocanis感染でした。したがって、このような低頻度の発生状況を考えると、猫ヘモプラズマ感染症との関連がより強いのではないかと考えた次第です。

CMhhのヒトにおける感染報告は今回を含めて 2 例しかないようで、病原体に関する情報をはじめ感染経路など不明な点が多く残されています。今回の事例報告では、伴侶動物との関連性に関して全く情報がないものの、病原体の遺伝学的性状から新たな人獣共通感染症になることも考えられました。伴侶動物の多くは室内で飼育されており、ヒトとの距離が極めて近い存在であり、獣医師にとっても関心の高い感染症に思われました。今後は伴侶動物やヒトにおけるCMhhの検出状況を明らかにするとともに、病原体の性状に関する情報にも注視していきたいと考えています。



1)渡辺 征ほか:日本の飼い猫における新規なヘモプラズマCandidatus Mycoplasma turicensis 感染の検出,日本獣医師会誌 64:150-153, 2011.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma/64/2/64_150/_pdf/-char/ja
2)Hattori N, et al.:Candidatus Mycoplasma haemohominis in Human, Japan, Emerging Infectious Diseases Vol. 26, No. 1, January 2020
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/1/19-0983_article
3)猪熊壽:ヘモバルトネラ感染症,Small Animal Clinic 142:11-16, 2005.
http://id.nii.ac.jp/1588/00000362/


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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