細菌の分類と研究

細菌の分類といえば、歴史的に集落の性状、細菌の染色所見や生化学的性状をもとに実施されてきました。読者の先生方の多くは大学の講義や実習でそのように習ったはずです。その後、細胞壁の組成や脂質や脂肪酸の種類をもとに化学分類が加味され、さらにDNAのGC含量などを分類指標とされてきました。近年、16S rRNAの塩基配列に基づく分子進化学的な系統分類が主流になりました。そしてポストゲノム時代になり今回紹介した質量分析を用いた細菌タンパク質を用いた手法へとパラダイムシフトが起きています。

最近、多くの獣医系大学でもMALDI-TOF MSを導入し、教育研究に盛んに利用されています。このことにより教員はもとより学生や院生の研究が効率的になったものの、臨床材料から起因菌を分離し、各種の形態学的性状や生化学性状を調べ、細菌同定マニュアルと首っ丈で菌種を同定した者としては、細菌学教育としてこれで良いのかと悩むこともあります。時代が変わろうと細菌の同定は細菌学の基礎であり、形態や生化学性状を基本とすることに変わりがないように思います。基本的な古典技術と効率的な最新技術とをいかに取り込んで教育するかが今後も悩むことになりそうです。


1)大楠清文:質量分析技術を利用した細菌の新しい同定法,モダンメディア
58(4):113-122,2012.
2)野村文夫:質量分析技術の臨床検査応用-現状と課題-.モダンメディア 63(3):10-16, 2017. 
3)Croxatto A, Prod’hom G, Greub G: Application of MALDI-TOF MS mass spectrometry in clinical diagnostic microbiology. FEMS Microbiol Rev. 36(2):380-407, 2012.
4)笠井智子,三枝早苗,佐々木崇:臨床検査機関でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と同定された犬由来ブドウ球菌菌株の分類学的再検討.獣医臨床皮膚科 16(3):119-124, 2010.
5)Scott JS, Sterling SA, To H, et al: Diagnosis performance of matrix-associated laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry in blood bacterial infection: a systematic review and meta-analysis. Infect Dis (London). 48:530-536, 2016.
6)Ferreira L, Sanchez-Juanes F, Gonzalez-Avilla M, et al: Direct identification of urinary tract pathogens from urine samples by matrix-associated laser desorption ionization time of flight mass spectrometry. J Clin Microbiol. 48:2110-2115, 2010.
7)Hrabak J, et al., Carbapenemase activity detection by matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry. J Clin Minorobiol. 49(9):3222-3227, 2011.


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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