■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の15月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

獣医師の皆さんが学生時代に微生物学あるいは細菌学実習として細菌の同定法があったと思います。分離菌についてグラム染色などの形態学的検査、加えて糖分解能などの生化学的検査が行われて細菌を同定したと思います。さらに16S rRNA配列により系統分類と細菌の同定についても学んだかもしれません。しかし、これらの方法は結果を得るには長時間を要するとの問題点も指摘されてきました。つまり、急を要する感染症の治療には間に合わず、経験的な治療に頼らざるを得ないことです。

最近、医学関連の学会に参加すると細菌同定法として盛んに利用されているものにマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI-TOF MS;Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight Mass Spectrometer)による細菌の迅速同定法があります¹⁾。その簡便性や迅速性、さらには低ランニングコストから、現在、ヒト由来病原細菌の細菌学的臨床検査の主流になりつつあります。一方、獣医学領域ではデータベースが開発途上であるものの、近い将来、確実に現行法に置き換わる主要な方法として利用されるものと思われます。そこで今回はMALDI-TOF MSによる細菌同定法の概要について紹介したいと思います。