ケース1『意外に多い!?「吐く」という症状を認識していない飼い主』について
さて、本題の症例の解説に入ります。
■プロフィール:雑種猫/10歳/去勢雄/体重3.5㎏(全盛期4㎏)/混合ワクチン接種済
■現病歴:数カ月前から元気・食欲が徐々に低下し、現在はそれぞれの全盛期の50%程度。元気・食欲の低下以外に症状は特にない。水もよく飲んでいる。
ここでポイントなのは「元気・食欲が徐々に低下」「元気・食欲の低下以外に症状は特にない」ということです。
「元気・食欲が徐々に低下」という症例は臨床の先生方もよく遭遇されるかと思います。「とりあえず」血液検査、X線検査、超音波検査というアプローチで結果「異常値・異常所見なし」となる。「一体何が悪いのだろう…」というドツボにハマってしまう。そのような「あるあるパターン」を私自身もよく経験しました。
こういった「元気・食欲低下」を主訴とする症例については、まず具体的な検査に入る前に、問診や身体検査で手がかりをしっかり探すというところが重要になってくると思います。
そのため、私自身このようなケースに対しては、改めて問診をとるようにします。
「お水はどれぐらい飲んでいますか」「以前に比べて飲む量は増えていますか?減っていますか?」と聴くと「正確にはわかりませんが、以前と変わりありません」と答えます。
「下痢はしていますか?」「便の状態はどうですか?」「便の色はどうですか?」と聴くと「下痢はしていません。茶色の普通のうんちをしています」と答えます。
そして「吐いていますか?」と聴くと「2年前から週1で吐いています。毛玉が出てくることもあります。でも、猫は毛玉を吐くからこれは普通のことでしょう?」と仰いました。
これは実は非常によくあるパターンで、ピンときました!
最初「元気・食欲がない、他に症状がない」と飼い主さんは仰っていたのですが、それは吐いていることが異常ではないという認識だっただけで、問診で実は「吐いている」ということがわかりました。これが診断のとっかかりになるかもしれない、ということなんですね。
猫が毛玉を吐くことは日常的なことでもありますが、すべての猫が吐くわけではないので異常な場合もありえます。
また、犬の場合でも「散歩で草を食べているのだから、吐くのは日常的なことだ」と考える飼い主さんもおられます。
つまり「吐く」という症状を異常に思っていない飼い主さんは(特に猫の飼い主さんには)意外に多いということなんですね。