前回の陰陽論あたりから、「なんだか難しい・・・?」「やっぱりあやしい!!」と感じられた方もいらしたでしょう。
今回は、陰陽論と同様、中医学を実践していくために重要な「五行(ごぎょう)論」のお話をさせていただきます。一度、いつもの西洋医学的思考からちょっぴり離れてみませんか。きっとからだに対する新しい診方ができるはず!さぁみていきましょう。

五行論とは

まずこの図をみてください。


「木・火・土・金・水」の5つのグループにそれぞれいろいろなものが所属しているのがわかりますね。
このように、中医学では、宇宙に存在するものを「五行」というグループに分けられると考えます。そして同様に、小宇宙(第2回参照)である生体も五行に分けられると考えます。

例えば、四季でいうと春は「木」のグループ、夏は「火」のグループ・・・という風に所属が決まっています。生体では、肝や胆が「木」のグループ、心や小腸が「火」のグループ・・・となっていますね(こことても大事です。)感情だと悲は「肺」、恐は「水」・・・、

そして、これらの五行は、それぞれ促進し合ったり抑制し合ったりして、宇宙の中でも生体の中でも、常にバランスを取ろうとしているのです。恒常性(ホメオスタシス)をイメージしていただくと良いかもしれませんね。促進する関係を「相生(そうせい)関係」または「母子関係」(実践の矢印)と言い、抑制する関係を「相克(そうこく)関係」(破線の矢印)と言います。


それぞれ、役割や性質のようなものが決まっていて、大まかにいうと以下のようになっています。
●木:曲直・・・木が伸びやかに枝葉を伸ばしていくイメージ
●火:炎上・・・温めて明るくはっきりさせるイメージ
●土:稼穡(かしょく)・・・土に種を撒いて収穫する、生み出すイメージ
●金:従革・・・変革を表す。収斂(引き締める)や、清らかで沈み込むイメージ
●水:潤下・・・潤し、冷たく、下へ流れていくイメージ

ですから、「木」のグループに属する肝の気は、特に伸び伸びと巡り良くいることを好みます。もしこの気の流れが滞ってしまったらどうなるでしょうか。

例えば、肝は「情志」といって、感情全体のコントロールの役割もあります。一般的に使う「肝臓」という言葉からは想像しにくいかもしれませんね。先ほどの図でも、肝は主に「怒」の感情を担当しますが、いつも怒りっぽかったり、なんとなくイライラしていたり、慢性的にストレスを受けている動物や人は、肝が脾を抑制しすぎて、便秘になったり下痢になったりするということがあります。脾は消化機能を担当するので、脾が過度に抑制されてしまうと便通にも影響があるのですね。過敏性腸症候群などを想像していただくと良いと思います。


また、例えば、高齢動物の椎間板ヘルニアの鍼灸治療(主に、腎が弱っていることによる)をしていると、併発している眼の疾患(例えば、ドライアイや緑内障)などに改善が見られることがあります。目は肝に属します。直接的に目(肝)に対する治療をしていない場合でも、肝の母である腎を補う治療をしたことで、その影響が子である肝にも及び、良い結果が得られることがあるのです。

西洋医学的には、腎臓は泌尿器科、眼は眼科、胃腸や肝臓は消化器科・・・と担当する診療科が変わるかもしれませんが、実はお互いに影響を及ぼし合っているということを知っておくと、新たな連携が取れるようになるかもしれません。


このように、五行は常にバランスを取ろうと、新たな平衡状態を目指して日々働いてくれています。その新たな平衡状態を得るお手伝いをするのが中医学、鍼灸治療なのです。
自分もどうぶつも、「からだやこころのクセ」、例えばイライラしやすいとか、落ち込みやすいとか、お腹を壊しやすいとか、目に症状が出やすいとか・・・がある場合、ふと五行のことを思い出してみてください。患部以外にも改善できることがないか、新たな視点でからだやこころをみるきっかけになるかもしれませんよ。


次回は、いよいよ、生命体を構成する「気・血・津液」についてお話したいと思います!
それでは皆様、お元気でお過ごしください!


青木志織 Shiori Aoki

ウィルどうぶつクリニック

大学在学時より中医学を志す
日本獣医中医薬学院卒業
1 級獣医中医師/獣医推拿整体師
現在、中医学気功も勉強中

こちらの記事もおすすめ