外科教育に携わりたい

―日本の外科領域の知見や手技は、海外、特にアジアに向けて発信ができる状況という印象があります。この点も含めて、福井先生は今後の外科領域の発展にどのように携わっていこうとお考えですか?
 日本人の手技の丁寧さや細やかさは世界に誇れることですし、海外に向けて情報発信ができる状況にあるとすれば、それは喜ばしいことだと思います。しかし、個人的に携わっていきたいと考えているのは、日本における教育制度です。
 


 まずは、外科に興味をもつ先生が勉強できる環境をつくることに、注力していきたいと考えています。日本では、今でも「みて盗め」という教育方針の病院が多いかと思います。この方法では、技術の習得はなかなか難しいと思います。先ほどお話したとおり、成書を読むことも大切ですが、本だけの知識では無理な手術があることも事実です。文字に落とし込めない何かをどう伝えるのか、また「当時こうして教わったけど、教えられたときにはできなかったな」などの不疎通を回避する考え方・教え方など、それらを色々ひっくるめて「外科を学べる環境づくり」に注力していきたいと考えています。

 私個人がもっともっと勉強しなくてはならないという前提がつきますが、外科専門医として知識をまんべんなく保ち、その知識をきちんと教えられる獣医師になりたいです。それが専門医制度の発展にもつながると考えています。


―最後に、若手の獣医師の先生方にアドバイスをお願いいたします。
 漠然と勉強しろといわれてもできるものではないので、まずは目標を立てることではないでしょうか。「レジデントを終わらせる」でも「専門医の資格を取る」でも構いません。目標ができると、勉強すべき範囲もはっきりしてきます。
 それと、きちんと教えてくれる“よい指導医”をみつけることも重要です。そして、よい指導医と巡り合えたら、ある程度はその環境に留まってください。短い期間、たとえば3年ごとに別の病院に移ることを考えているようでは、外科医としての成長は厳しいと思います。

 なぜなら、実際に自分で手術をしないと外科医として成長しませんし、どの指導医も最初から手術をさせてくれるわけではないからです。指導医が「こいつはすごく頑張っているな。努力しているな」と認めてからでないと、執刀はさせてくれません。1カ所で長い期間の努力を重ねて、「自分はここまでできるようになりました」とアピールしてください。指導医の信頼を獲得できれば、難しい症例も任せてもらえるようになります。やはり、着実にステップを踏んでいくことが、外科医を目指す獣医師に必要なのだと思います。


福井 翔

2006年 酪農学園大学獣医学部 卒業
2006年 酪農学園大学附属動物病院 研修医
2009年 日本小動物外科専門医レジデントプログラム開始(酪農大)
2012年 酪農学園大学獣医学研究科 入学
2016年 日本小動物外科専門医 取得
2017年 江別白樺通りアニマルクリニック 開業
2017年 酪農学園大学獣医学研究科 卒業

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