各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。

「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第15回は福井翔先生です。

外科手技を習得するためのポイントとは

―福井先生が外科を志すようになったきっかけを教えてください。
 幼いころから「病気を治す職業に就きたい」という漠然とした気持ちを抱いており、医療系の仕事に興味をもっていました。高校生のころは医学部や薬学部にも魅力を感じていたのですが、自分が鳥や犬を飼っていたこともあって、最終的には獣医学部へと進むことに決めました。動物病院に行ったとき、獣医師が自分の飼っている動物を治してくれる姿が、とてもカッコよく思えたんですよね。
 獣医療のなかで、「治る・治らない」が一番はっきりしているのが外科であり、だからこそ、外科を志しました。基本的には「1回の手技で完治を目指す」「一発で治す」というのが外科の基本だと思っていますし、そこが最大の魅力です。


―外科領域は、長期にわたる技術の習得と多岐にわたる知識の習得が必要と推察します。ご自身の経験と照らし合わせて、技術や知識の習得におけるポイントを教えてください。
 私自身がそうでしたが、きちんとしたステップを踏む必要があるかと思います。
 まずは成書などの書籍で基本を学び、その知識を身に付けてから実際の手技を学んでみてください。成書には、先人たちによる多くの失敗の蓄積に基づいたベストな方法が書かれています。正当な理由もなくそこから外れた方法を取った場合、それは失敗しても仕方がない方法だろうし、この段階を飛ばしてしまうと“我流”になってしまいます。外科の世界では、我流のうちは腕が上達しないという印象があります。
 


 また次のステップとして、再発した症例をみることや、手術の失敗例を学ぶことが必要になります。例えば大学や二次診療施設における研修医の段階では、外科専門の先生から「手術方法」や「外科の考え方」を教えてもらいますが、このときに再発した症例などもみて学ぶことも重要かと思っています。外科では成功ばかりということはあり得ませんし、逆に成功ばかりしていると上手くなりません。「これをやってはダメなんだ」ということも学んでおく必要があるということです。外科専門医のレジデント時代、私が執刀医を担当し、指導医に助手に入ってもらいアドバイスをいただきながら手術をしたのですが、「そのやり方はよくないな」という指摘をいただいたら、その場でディスカッションをしながら最善の方法をみつけていきました。これは、本当に勉強になると感じています。

 そして、信頼を重ねて、徐々に難易度の高い手術を任されるようになってからは、多様なパターンを経験することで応用力をつけることも重要かと思います。同じ病気でもさまざまなアプローチ法があり、どの手法が最善なのか決めるのは、獣医師に求められえるスキルの一つですからね。


―ステップを踏み技術・知識を習得すれば、もう怖いものはないといった感じでしょうか?
 いえ、手術は毎回怖いものです。今でも難しいオペの前日は憂鬱になりますし、逃げ出したくなりますね(笑)。大きな手術の場合は、事前に何回もCT画像を見直し、何度も何度も手順をシミュレーションすることで、「絶対に大丈夫」と自分に言い聞かせています。だからこそ、手術が成功したときは本当に嬉しいですね。
本来、手術という治療法はハイリスク・ハイリターンな手段であり、そのリスクを最小限とすることは、外科の醍醐味であり外科医の使命とも考えています。