米国専門医と同等レベルの教育環境を国内に

―米国のレジデントプログラムにおいては、臨床研究と並行してインターンや学生の教育にも従事しておられたそうですね。指導に当たって、特に注意されていた部分はありますか?
 まず、それぞれの症例の病歴や検査所見を、病態生理学や薬理学などの理論に落とし込んで解説することです。その上で、「今までの経過からどんな鑑別が考えられますか?」、「どういう検査が必要ですか?」など、臨床の現場に戻して考えてもらうようにする
と、一つの現象や疾患に対する理解の深さが全く変わってきます。面倒な作業に思われるかもしれませんが、これを徹底して繰り返すことで知識が沈着するのです。


―帰国後の所属先であるどうぶつの総合病院には、米国の専門医資格を持つ獣医師が、福島先生を含めて 8 人も在籍しておられるとか。国内では稀なケースですね。
 米国専門医同士が自由にディスカッションできる場であることが、この病院を選んだ理由でもありました。若い先生方に対しても、専門医が集まるこの環境で、できるだけ米国のレジデントプログラムに近い形でトレーニングを積んでいけるように導いていきた
いですね。上下関係なくディスカッションでき、臨床医として共に切磋琢磨できる環境を整えられれば嬉しいです。


―最後に、日本の獣医療全体についての今後の展望をお願いします。
 甲状腺機能亢進症に対して、獣医療でも海外と同じく放射線ヨウ素を用いた治療ができるよう、さまざまな先生方の協力を仰ぎつつ、法改正を含めた取り組みを進めていきたいと考えています。その他、コロラド州立大学の後輩が進めている猫好酸球性硬化性
過形成(GESF)の症例研究に参加し、2023 年のACVIMにて発表予定です。GESFは珍しい疾患ですから、日本からの症例もとりまとめて海外のチームと共に発表することで、海外からの注目度も高まるのではないかと考えています。そうやって、私が日本と海外の研究者をつなぐ架け橋の一人になれれば嬉しいです。
 
 ACVIMやECVIMの会場で、広域のメタ解析として並ぶのは、現時点では米国とヨーロッパのデータだけ。そこに、アジアのデータが加わるよう、流れを大きく変えていきたいと思っています。


福島 健次郎

米国獣医内科学専門医(小動物内科)、修士(毒性学、臨床化学)、博士(獣医学)

【経歴】
2006年 鹿児島大学 農学部獣医学科 卒業
2006~2008年 東京大学動物医療センター 内科系診療科 研修医
2008~2009年 東京大学動物医療センター 獣医内科学研究室 教務補佐員
2009~2017年 東京大学動物医療センター 第2内科 特任助教
2017年 東京大学 大学院 博士号(獣医学)取得
2017~2018年 コロラド州立大学 大学院 放射線環境科学学部 修士号取得(毒性学)
2018~2019年 コロラド州立大学 小動物内科専科インターン
2019~2022年 コロラド州立大学 小動物内科レジデント修了
2019~2022年 コロラド州立大学 大学院 臨床科学学部 修士号取得(臨床科学)、米国獣医内科学専門医(小動物内科)取得

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