理論ベースの思考力を鍛え、全身を総合的に診る力を磨く

―福島先生は 2017 年から 5 年間にわたり、JFVSS(日本獣医学専門医奨学基金)の第 3 期生として、コロラド州立大学に留学されていました。留学を決意されたきっかけは?
 留学の約 1 年前、大学病院の臨床で、深刻な嚥下障害の症例を担当した時の経験が大きいと思います。文献情報も、できる検査も限られていて、ものすごく悩んでいました。そんな折、ちょうど訪米の機会があり、消化器疾患の研究で有名なStanley Marks
教授(カリフォルニア大学デービス校)の講演を聞けたんです。その講演は、数百例の嚥下障害の犬について、X線透視検査の結果をサイエンティフィックに分析するという内容。その規模にも、レベルの高さにも、大きな衝撃を受けました。「今まさに悩んでいる症例も、こういう先生に巡り合えたら適切な診断、治療につなげられるのに…。私が診ているばかりに、長く苦しませてしまっている」。力不足を痛感せられました。


―留学先のコロラド州立大学のレジデントプログラムでは、どのような部分に魅力を感じられましたか?
 米国獣医内科専門医の先生方に接する中で、最も大きな感銘を受けたのは、内科医の本質、いわば「動物の全身を総合的に診ることができる能力」です。先生方は、呼吸器や腎泌尿器、肝胆道系など全ての内科の診療分野でハイレベルな知識や臨床経験をもっておられます。だからこそ、身体のある部位で問題を生じさせている事象が、別の部位にどんな影響を与えるかが見えてくる。そうした身体の中の有機的なつながりを、科学的にかつ理論的に読み解くことができて初めて、その症例に起こっている現象や疾患の成り立ちを真に理解し、より正確な診断、治療につなげられるのだと思います。


―身近に目指すべき存在がいるというのは、学びがいがありますね。
 はい。専門医に直接相談できるレジデントラウンドでは、毎週、専門分野が異なる先生方に、多様な角度からのアドバイスをいただけます。毎回、知識の深さ、幅広さに感服するばかりでしたし、一言たりとも聞き漏らせないほど、得難い経験になりました。