犬の僧帽弁閉鎖不全症において、重要な情報はありますか?

最新のACVIMコンセンサスステートメントには、内科的治療だけではなくて、今後、外科的治療も入ってくるということです。
実際に僧帽弁閉鎖不全症の手術をしている施設が増えてきていますよね。現在、年間で100例くらい手術を行っている施設もありますが、国内で年間300~400例ほど行えるように進んできています。今後は、獣医師よりも飼い主様が外科的治療を望むニーズが増えていくのだと思います。
飼い主様から、外科的治療の要望があったときに自分の施設で全てを完結するというのはなかなか難しいことだと思います。だからこそ、このような情報を持っているか、外科的治療をしている施設へ紹介できるかどうかも、この本を通して伝えたいことの一つでもあります。


―― 治療の選択肢として、内科だけではなく外科も増えていくんですね

初期治療としては内科的にコントロールしていきますが、「完治させたい」ということであれば、手術を行う選択肢もあります。世界に先駆けて日本の手術件数に対する成功数は群を抜いて高いですし、このような環境にいることはすごく恵まれています。これを上手く利用していかない手はないだろうという、内科医における今後の治療の展望だと思います。
外科医の方はもっと技術的なところも出てくるのだと思いますが、内科医としてはこのような手術ができる施設が国内で増えてきて、その成功率も高くなっているので、僧帽弁閉鎖不全症の治療方法の選択肢として考えざるを得ないところではあります。


―― 施設数もですが、今回執筆者の数も多いですよね。監修者の田中綾先生や20人の著者はどのような人選だったのでしょうか?

人選は難しかったですね。各大学のやり方はそれぞれありますが、それ以外でやり方が変わる要素だと土地柄もあるかなと。都内の方が治療に対して経済的に余裕があるような印象があります。一方、地方だと治療したい気持ちがあっても、経済的な負担に基づいて治療方法を決定する可能性が高いようです。
それと、一次診療と二次診療の場合ではその設備による差が生まれます。診断ツールが違うとなると、一次診療の先生は色々な文献や報告を見て、こういう状態のときにはこういう数値に変化があるということを念頭に置きながら治療を進めなくてはなりません。
ここで大切なのが、「検査機器がないから診断ができません」では臨床家になれない、ということです。では何かというと、「自分の感覚をうまく駆使して診療を進めていきましょう」ということです。例えば、呼吸が荒い時、SpO2の数値だけではなくて、呼吸様式や粘膜の色、聴診したときに肺水腫になっているような音が聞こえていないか、聞こえる場合は過去の報告や経験から検査した場合の画像や数値をイメージすることが必要です。エビデンスを得るためには自身の感覚を駆使した検査をしっかりで行うことが一次診療、二次診療ともに必要です。



―― 規模の大きさを言い訳にせず、できることを最大限にすることが大切なんですね

鹿児島の上村先生はまさしく、そのような感じでご執筆いただきました。日本獣医循環器学会の認定医として、知識と技術を兼ね備えていますが、動物病院が地方にあるため、土地柄なのか獣医師と飼い主様との間のニーズに差があることもあります。そこで「できないから診断できませんよ」とすまさずに、普段から身体検査をはじめ、自分の目でしっかり見る、耳で聞く、触るなどを、しっかりと確認しながらやっていくのが地方や一次診療の先生のやり方だと思います。