獣医療における人工血液の展望
これまで紹介したように、犬と猫用の人工血液の基礎的な研究は進展しています。ただし、動物用医薬品として販売されるまでには多くの試験と時間、そして予算が必要になります。
まず確認しなければならないのは、実験動物や対象動物での安全性と有効性であろうと思います。特に、有効性をどのような指標で見るべきかということも検討すべき課題です。また、このままの形状でどの程度の安定性があるのかも興味があるところです。安定性に優れた凍結乾燥製剤になることも考えられます。
また、この状態の製剤であれば法的に一般医薬品扱いになりますので、以前のコラムで紹介したように申請資料として毒性試験データや吸収・排泄データも必須となります9)。これ以上の動物用医薬品としての開発研究は大学の研究室では不可能であると思われますので、早期に日本の製薬企業がこの分野に参入することを切に願いたいと思います。
一般的に、今から新しい動物用人工血液の開発研究を開始しても、臨床獣医師が購入して使用できるまでには約 10 年の歳月がかかります。しかし、動物用の人工血液は世界的にも求められている製剤であり、日本のみならず、世界の動物用医薬品の市場に持ち込めるシーズであることは間違いありません。できるだけ早期に、世界で飼育されている犬や猫が人工血液の恩恵を享受できることを期待したいと思います。
1)日本赤十字社 東海北陸ブロック血液センター:KENKETSU VOICE
https://www.bs.jrc.or.jp/tkhr/bbc/special/m6_03_05_20160202-5.html(最終閲覧日:2022年11月17日)
2)BBC NEWS Japan:研究施設でつくられた血液、人体で臨床試験 英国で世界初
https://www.bbc.com/japanese/63538794(最終閲覧日:2022年11月17日)
3)田村 豊:伴侶動物の輸血事情~輸血が簡単にできない理由~ 第2回獣医学の今を読み解く(EDUWARD MEDIA) https://media.eduone.jp/detail/10202/
4) PAGE: 減りづける献血可能人口、「足りない血液」を補う人工血液の研究進む
2016年4月6日 https://news.yahoo.co.jp/articles/8047e4a7da87e9ffc9c7c06181a6f7e1207b51f6(最終閲覧日:2022年11月17日)
5)宇宙航空研究開発機構(JAXA):イヌ用人工血液の合成と構造解析に成功-輸血液不足の解消に期待、世界で需要-2016年11月11日
https://iss.jaxa.jp/kiboexp/news/20161111_pcg.html(最終閲覧日:2022年11月17日)
6)Yamada K, et al: Artificial Blood for Dogs.Scientific reports 6:36782(2016)
https://www.nature.com/articles/srep36782
7)宇宙航空研究開発機構(JAXA):ネコ用人工血液を開発-動物医療に貢献、市場は世界規模- 2018年3月20日(最終閲覧日:2022年11月17日)
https://www.jaxa.jp/press/2018/03/20180320_albumin_j.html
8)中央大学理工学部応用化学科生命分子化学研究室:研究概要
https://komatsu-lab.r.chuo-u.ac.jp/research.html(最終閲覧日:2022年11月17日)
9)田村 豊:先発医薬品と後発医薬品 第91回獣医学の今を読み解く(EDUWARD MEDIA) https://media.eduone.jp/detail/11850/
これまでの連載は下記リンクから見ることができます。
https://media.eduone.jp/list/106/110/
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編集:大草 潔、 折戸謙介
出版:エデュワードプレス
サイズ:B6判、ビニール製本、1228ページ、オールカラー
発行年月日:2022年11月30日
本体価格 29,700円(税込)

田村 豊 Yutaka Tamura
- 酪農学園大学名誉教授
1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)