「専門医」は臨床医としてのベース
教える姿勢、情報共有の術を学ぶ

―― 灰井先生は 2020 年度に日本小動物外科専門医を取得されました。なぜ、専門医を目指されたのでしょうか。

一番はよい師匠に恵まれて、引っ張り上げてもらったというのが大きいですし、本当に感謝していますが、私は学生の頃からずっと、「自分の目の前に来た動物だけは、手が届く動物だけは何とかしてすべて助けてあげたい」という想いが胸の中心にありました。臨床医になっても「なんとか助けたい」の一心で、外科から内科までさまざまな病気について徹底的に調べるのを繰り返し、自分が助けられなかった症例は、次に同じ症例が来たときに助けられるように書物も調べるし、技術や知識をもった先生のところに学びに行く……。その繰り返しで積み重ねた先にあったのが「専門医」への道なのではないかなと思っています。

―― 専門医取得までの道のりは、かなり険しいとお聞きしていますが、振り返ってみていかがでしょうか。

専門医取得のためには外科手術執刀 400 件、さらに救急、内科診療などを含めればかなりの数の症例を3 年間でみる必要があり、「症例数をこなせるだろうか」、「このペースでは期限に間に合わないのでは」と不安になることもありました。座学や論文執筆もハードで、多くの方がドロップアウトされる中、諦めそうになることも……。しかし、私を専門医への道に引き上げてくださった先生方のご尽力を思うと、投げ出すわけにはいかなかった、というのが本音(笑)。専門医取得を勧めて下さった廉澤先生、指導医の諸角先生はもちろん、三重の南動物病院、米国の専門医の先生方など、本当に多くの方に大変お世話になり、心から感謝しています。


―― 実際に専門医を取得してみて、いかがですか。

資格を取得するのがゴールではなく、むしろ、外科医としてある程度の必須要素、言わばベースを網羅した段階が専門医なのだなと考えるようになりました。そのベースがあって初めて、自分が興味をもつ分野への専門的な研究を進めていけるのだし、そのベースがなければ何でも自分の得意分野にあてはめて考えてしまう危険性があることにも気づかされました。
実際に、諸角先生やレジデント生活を通じてお世話になってきた熟練の先生方と接していて感じたのは、どの先生も卓越した専門知識と技術をもちながら、異分野の診療知識にも精通していらっしゃるということでした。先生方がそうした幅広い知識を網羅しておられる点も、すごく尊敬していますし、一歩でも追いつきたいと思っています。

―― 先生方との出会いも大きな財産になったのですね。

はい。また、専門医のレジデントプログラムに参加してみて衝撃を受けたのは、指導してくださった専門医の先生方の教える姿勢でした。自分が経験した内容を後進に伝えるのがいかに大事か、教わってきた内容をどうやって教えるのか……論文執筆の方法から手術手技に至るまで、「情報の共有の仕方、人への教え方を教えていただいているんだな」ということが、がレジデントプログラムで出会った先生方からひしひし伝わってきたんです。実は、レジデント生活を始める前に私がもっていた専門医の印象は、「個人的な技能の資格」だったのですが、そうではなく、「後進に情報を共有し、獣医療業界全体に貢献していくための資格なのだな」と気づかされ、身が引き締まりました。

―― では、今後の先生ご自身の展望や目標についてはいかがでしょうか。

先人が積み重ねていただいた実績そして諸角先生から引き継いだものを、いかに発展させられるかですね。それこそ、諸角先生が「この子はちょっと難しいよ」と仰っていたような症例の治療成績を少しでも上げたいですし、さらに言えば、今までだったら手を施してもどうにもならなかったような難しい症例をいかにして治療するか、良い状態に導くか……ということにチャレンジして、課題を一つ一つ克服していければ嬉しいと思います。そのためにはそれぞれの病態の基礎的な研究も必要になってくるでしょうし、現在も少しずつ行っている脳外科に対してももっと広げていきたいと考えています。

―― 最後に、読者である臨床獣医師の皆さんに向けたメッセージをお願いします。

まずは、目の前の症例を一生懸命助けてほしいと思います。生きている動物が一番教えてくれますし、全力で助けようとして経験したことが大きな学びになるのではないでしょうか。また、外科専門医の取得もぜひお勧めしたいです。専門医を目指す中で学ぶ姿勢が出来上がってきますし、多くの先生や同志と出会い刺激を受けることができます。それが今後さらに成長するための大事なベースになると思います。