臨床と研究の好バランス
神経疾患を極める魅力に開眼

―― 前院長の諸角先生は神経疾患がご専門で、昔から椎間板ヘルニアをはじめ、さまざまな症例が遠方より貴院に来院されるとお聞きしています。灰井先生が大学卒業後の進路として貴院を選ばれたのも、神経疾患にご興味があったからなのでしょうか?

大学時代は整形外科のほうに興味があり、ここに来た当時は「整形外科疾患を極めるなら、除外診断のために神経疾患にも詳しくならなければ」という考えが強かったかもしれません。しかし、師匠に恵まれたと言いますか、諸角先生が本当に楽しそうに神経疾患に取り組んでおられるのをみて、私もすごく影響を受けたんです。

―― 大学での研究や教員の道はお考えにはならなかった?

はい。大学時代の恩師である廉澤 剛先生には「臨床には限界があるから、研究が絶対したくなるもんだよ」と言われていたのですが、やはり臨床に行きたい気持ちが強くて。それに、諸角先生が研究と臨床のバランスの点でも非常に優れた方であったことも、私には幸いでした。
そもそも一次診療の獣医師の仕事は、その症例に寄り添うことを突き詰めれば臨床のウェイトが重くなりすぎてしまいますし、臨床の中で分からないこと、「なぜだろう」と考えることがあれば研究的な活動を求めるようになってくるもの。今、そのバランスが上手く取れるようになって仕事がすごく楽しく感じられるのは、諸角先生の仕事のスタイルを一番近くでみて学べたからだと思っています。多種多様かつ豊富な症例をみせていただき、経験させていただいたおかげで、この病院の院長を引き継がせていただくことができましたし、今後は整形外科疾患というよりは脊椎外科も含めた神経疾患を中心にみていきたいと考えています。

―― 灰井先生は脊椎外科も含めた神経疾患のどのような部分に面白さをお感じになっているのでしょうか。

整形外科的な要素と軟部外科的な要素を併せもつところでしょうか。例えば神経は柔らかい組織ですから繊細な扱いが必要で、一歩間違えれば即座に機能に影響が出てしまいますが、それは軟部外科の先生がもつ「一歩間違えれば死ぬ」という緊張感と同じ。一方で、その症状を引き起こしている原因が、骨の不安定性であった場合、その安定性を保つには整形外科的なアプローチが必要になってきます。そのあたりの両立は難しい部分も大きいのですが、できるだけ低侵襲で、機能を温存できて……と考えていくのは非常に面白いと思っています。

―― 先生がすごく楽しそうにお話されているのをお聞きしていますと、この仕事をいかに好きなのかというのが伝わってきます。

ありがとうございます。今はもう少し研究にも力をいれたい気持ちもあります。臨床を通じて、「ここはどうなっているのか調べてみたい」と思う部分も増えてきましたから。ただし、基礎研究と教育は大学が行うべき責務だと思っていますし、臨床の現場は大学側からもらった基礎研究のデータを使って、いかに臨床症例のデータの数を出し、検証をしていけるのかが使命だと考えています。