日本で世界に先駆けた伴侶(愛玩)動物由来薬剤耐性菌モニタリングが開始されたことについては、すでにコラムでも紹介しました(https://media.eduone.jp/detail/10857/)。この本体となるのが1999年に農林水産省で開始した家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング制度(Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System)で、英語名の頭文字をとってJVARM呼ばれています1)。設立して今年で23年目になり、国内的にも国際的にも名前の通った薬剤耐性モニタリング制度となっています。そこで今回はJVARMの設立背景と意義について、先にまとめた総説2)をもとに紹介したいと思います。

JVARMの歴史を学ぶ

JVARM設立までの経緯を図1 に示しました。従来、家畜由来の薬剤耐性菌は、家畜に使用する抗菌薬の効果を失わせる細菌としか考えていませんでした。ところが、1968年に英国で設置された「畜産および獣医学における抗生物質使用に関する合同委員会」は、1969年に委員会報告書(Swann Report)を英国議会に提出し、事態が一変することになりました。報告書では、家畜の成長促進目的で使用される飼料添加の抗菌薬は、薬剤耐性菌やRプラスミドの増加を促す原因ともなり、ひいては人および家畜の健康を損なう恐れがあるので、十分な規制措置が必要であることを勧告しました。公式報告書として世界で初めて家畜由来薬剤耐性菌の人の健康への影響が指摘されたことから、非常に大きなインパクトを各国政府に与えることになりました。日本でも農林水産省は、従来、飼料添加の抗菌薬の法的な定義が曖昧であったものを、1976年に「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」(飼料安全法)の改正により、治療目的の動物用医薬品(飼料添加剤)と成長促進目的の飼料添加物に厳格に区別し規制を強化することになりました。


図1:JVARM設立までの経緯

飼料安全法の改正が薬剤耐性菌の動向に与える影響を検証するため、農林水産省は1976年から1977年にかけて全国的な家畜由来薬剤耐性菌に関する疫学調査を実施しました。これまで大学や研究機関が特定の地域での限られた調査成績しかありませんでしたので、わが国で実施された最初の全国調査となり、全国的な現状を把握することになりました。1976年の農林水産省が実施する全国調査では、全都道府県の家畜保健衛生所で調査を実施するため、手技の統一化を図ることを目的に薬剤耐性菌研修会が動物医薬品検査所(動薬検)で開催されました。研修会ではRプラスミドなど最新の薬剤耐性菌に関する情報を全国の家畜保健衛生所の職員に講義し、薬剤感受性試験方法(寒天平板希釈法)やRプラスミドの接合伝達試験などの実技指導も行われました。このことから研修会以後は家畜保健衛生所でも独自に薬剤耐性菌調査が実施されるようになり、この分野における発展に多大な貢献をしました。その後、1977年にも35都道府県の家畜保健衛生所で家畜由来薬剤耐性菌調査が実施されました。これらの薬剤耐性菌調査により全国的な家畜由来薬剤耐性菌の実態の一端が明らかとなり、JVARMの設立に繋がっていきました。

JVARMの設立には、国際機関を含む海外の動向が深く関与しています(図2)。まず中心となったEUの動きを紹介しますと、1986年にスウェーデンは成長促進目的の抗菌薬の使用を全面的に禁止しました。これは科学的根拠というより消費者の意向を政治家が取り上げた結果と言われています。その後、1995年に医療で重要なバンコマイシンと同系統のアボパルシン(AVP)の成長促進目的での使用をデンマークが禁止しました。AVPを使用することにより、医療で重要視される院内感染の起因菌であるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が増加するとの理由でした。この動きを見ていた農林水産省は、動薬検にAVP使用とVRE出現との関連を調査するように指示しました。短期間で47都道府県の鶏農場から集めた糞便を対象に調べたところ、AVP使用農家からVREが分離され、未使用農家からは分離されませんでした。この調査結果を受け、1997年に日本もAVPおよび同系統のオリエンチシンの飼料添加物としての使用を禁止したのでした。その後EUでは、成長促進目的での抗菌薬の使用を禁止する動きが先鋭化し、2006年には全ての成長促進用の抗菌薬を禁止しました。一方、WHOは1997年と1998年にかけて家畜における抗菌薬の使用が医療に及ぼす影響に関する会議を開催しました。その中で、家畜由来薬剤耐性菌の医療への影響に関する科学的な根拠は明確でないものの、薬剤耐性菌対策として家畜における薬剤耐性に関するモニタリング(サーベイランス)の実施を勧告したのです。そこで各国の薬剤耐性サーベイランスの取組み状況を把握する目的で、1999年にWHOは「食品媒介性病原菌の抗菌剤耐性サーベイランスに関する情報交換と成績の共有化」の非公式会議を開催しました(図1)。会議では農林水産省から1976年から1977年に実施された全国的な薬剤耐性菌調査について紹介したところ、日本を除く先進国ではすでに人、動物、食品由来薬剤耐性菌の統合されたサーベイランス体制が確立し、定期的な調査が実施されていることが明らかにされました。これは農林水産省にとって衝撃的なことであり、早速、会議の議事内容は動薬検を通じて本省に上げられました。さらにOIEは家畜衛生専門の国際機関として薬剤耐性に関する専門家会議を開催し、2002年に抗菌剤の慎重使用、リスク分析、抗菌剤使用量、薬剤感受性試験法、サーベイランスの5つのガイドラインを作成し公表しました。これが後のJVARMの基本的な制度設計として活用されました。

先に述べた国際機関の活発な活動と同じ時期に、動薬検では家畜の病性鑑定材料から分離した野外流行株の薬剤感受性調査を毎年実施していました。これは1995年に施行された製造物責任(PL)法により、製造物に欠陥が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について規制が強化されたことを受けた対応でした(図1)。動物用医薬品も製造物であり、その許認可を与えた農林水産省にも関連することから開始された薬剤耐性菌調査でした。一方、先に述べた1999年のWHO非公式会議により家畜由来の薬剤耐性菌調査体制が先進各国から非常に遅れていることを憂慮し、1999年から予備的に野外流行株の薬剤感受性調査に付加する形で健康な家畜由来薬剤耐性菌調査が実施されることに成ったのです。ここで基本的な形が整いJVARMが確立することになったのです。


図2:EUの抗菌性飼料添加物の禁止の動き