これからの獣医療はどうなっていくのか。
そして、獣医師は今後どのように学んでいくべきなのか。
インタビューシリーズ「獣医療のミライ」では、
各分野で活躍する新進気鋭のスペシャリストたちに、
研究や臨床から得た経験をもとにした
未来へのビジョンや見解を語っていただきます。
第6回は東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門 准教授の大森啓太郎先生です。

「尖ったナイフ」だった学生時代と臨床への興味
―― 大森先生が獣医療の道に進まれたきっかけを教えてください。
中学、高校の頃は獣医師になろうという気持ちは全くなかったのですが、進路の方向性として漠然と考えていたのは理系でした。特に生物学に興味があり、消去法的に獣医学科を選んだんだと思います。亀や水生生物がわりと好きだったのもありますし、それに実は私、気持ち悪い生き物に心惹かれる癖(へき)があって(笑)。大学でも寄生虫を研究対象とする医動物学研究室に所属。さらに免疫学にも興味があったので、学部生時代の休み時間は寄生虫のアトラスや寄生虫の免疫などについて書かれた教科書を図書館で読みあさっていました。同じ日大生だった妻とのデートでも目黒寄生虫館によく行った思い出があります。
―― ちょっとユニークな学生さんだったのですね(笑)。
そうですね(笑)。興味を持ったことは何でも調べ尽くさなければ気が済まず、臨床医を軽視しているようなところがありました。自省を込めて振り返れば、自分の正しさだけを鋭く人に突きつける「尖ったナイフ」のような学生だったと思います。指導教官も扱いに困ったのかもしれません。大学 5 年生のある日、水戸市で開業されている同級生の方の病院に1カ月間、実習に行くことを勧められたんです。
―― 実習生活がその後の進路に影響したのでしょうか。
はい。泊まり込みでしたからご家族の皆さんにとてもお世話になりましたし、一次診療のリアルな現場に触れられたのは大きな刺激でした。例えば、院長先生は痒みを主訴に来院した犬が脱毛した皮膚を舐め続ける様子をみて、「ホットスポットだね」とすぐ判断し、ステロイドを打つ。次の日の再診ではかなりよくなって、飼い主さんが喜ぶというような……。ステロイドの薬理作用などは大学の授業で知っていたのですが、衝撃を受けました。「こうやって自分が学んだ知識が社会に役立つんだ。今まで頭でっかちだったんだな」と。今思えば短絡的なのですが、そこから臨床に進みたいと考えるようになりました。