ポイント解説:甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症における心臓の変化として有名なのは左心室壁の肥厚である。しかしながら、甲状腺機能亢進症に起因して心臓の内腔の拡大だけを伴った心不全(高心拍出性心不全というが詳細は割愛する)を呈することもある。

図 1 および 2 は、CHF(胸水)を呈した猫の心臓超音波検査画像である。その心臓超音波検査初見を踏まえて心筋型の拘束型心筋症フェノタイプと分類した(第 3 回を参照)。血清サイロキシン濃度の上昇(総T4 > 7 μg/dL)が認められたため、CHFに対する治療と甲状腺機能亢進症に対する治療を同時に開始した。もともと存在した拘束型心筋症が甲状腺機能亢進症により増悪したのか、甲状腺機能亢進症単独でCHFを発生させたのかは治療開始の段階では分からない。



図1 右傍胸骨長軸四腔断面
左心房の拡大が認められる。左心室壁の明らかな肥厚は認められず、左心室の内腔の拡大や収縮機能の低下も認められない。左心室内に心内膜心筋型の拘束型心筋症を示唆するような瘢痕は認められない。また、胸水が認められる。LA:左心房、LV:左心室。



図2 右傍胸骨短軸断面(大動脈-左心房レベル)
左心房径/大動脈径(LA/Ao)は 2.0 であり、左心房の拡大が認められる。また、胸水が認められる。Ao:大動脈、LA:左心房。



参考文献
1. Luis Fuentes V, Abbott J, Chetboul V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. 2020;34:1062-1077.

次回は「猫の心筋症の診断⑤:心臓超音波検査~検査の概要~」について紹介する( 12 月 7 日に公開予定)。


これまでの連載はこちら
https://media.eduone.jp/list/106/119/


おすすめの商品

臨床の選択肢を広げるケーススタディ・マガジン


※VETERINARY BOARD 2021 年 7 月号では、「猫の肥大型心筋症 アップデート -HCMとHCM phenotype-」(監修:中村健介先生)の特集を掲載しています。本連載をご執筆いただいている大菅先生にも症例報告をご執筆いただきました。
出版:エデュワードプレス
サイズ:A4判 96頁
発行年月日:2021年7月15日


本体価格 4,400円(税込)

大菅辰幸 TATSUYUKI OSUGA

2012年 北海道大学 獣医学部卒業
2012年 北海道大学大学院 獣医学研究科 博士課程入学
2013年 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2015年 北海道大学大学院 獣医学研究科 博士課程修了、博士(獣医学)
2016年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2016年 北海道大学大学院 獣医学研究院 客員研究員
2016年 北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター 学術研究員
2017年 北海道大学大学院 獣医学研究院 附属動物病院 特任助教
2020年 宮崎大学 農学部獣医学科 助教

こちらの記事もおすすめ