2020 年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1。
心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。
これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。
本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 12 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。
第 5 回である今回は「猫の心筋症のステージ分類」について紹介する。

猫の心筋症のステージ分類
本ステートメントにおいては、ヒトの米国心臓協会やACVIM(つまり、犬の粘液腫様僧帽弁疾患に関するもの※2)により策定されたガイドラインで用いられている心疾患のステージ分類を参考にした以下のような心筋症のステージ分類を提案している(図)。
●ステージA:現在は心筋症に罹患していないが、心筋症になる素因がある猫
具体的にどのような猫のことを指すのかについての記載は本ステートメントにはない。
●ステージB:心筋症に罹患しているが、臨床徴候を認めない猫
犬の粘液腫様僧帽弁疾患のステージ分類と同様にさらにステージB1とB2に分類する。
・ステージB 1:うっ血性心不全あるいは動脈血栓塞栓症が発生するリスクが低い猫
・ステージB 2:うっ血性心不全あるいは動脈血栓塞栓症が発生するリスクがより高い猫
心筋症の猫をステージB 1 とB 2 に分類する際には心房のサイズをその判断材料とすることができる。左心房の拡大の程度がより重度であるほどうっ血性心不全や動脈血栓塞栓症が発生するリスクは高い。また、猫をステージB 1 とB 2 に分類する際には、左心房機能、左心室の収縮機能、左心室壁の著しい肥厚があるか、などについても判断材料にすべきである(図)。
●ステージC:現在あるいは過去にうっ血性心不全あるいは動脈血栓塞栓症が発生した猫
治療により臨床徴候が消失していたとしてもステージCである。
●ステージD:治療抵抗性のうっ血性心不全を呈する猫。
このステージ分類により心筋症の猫の予後予測や治療方針決定が将来行いやすくなることを期待する。

図 猫の心筋症のステージ
ステージB2の猫においては、奔馬調律、不整脈、左心房機能の低下、著しい左心室壁の肥厚、左心室の収縮機能低下、もやもやエコー/血栓、心臓壁の局所的な動きの異常、を伴うことがある。
ATE(Arterial thromboembolism):動脈血栓塞栓症、CHF(Congestive heart failure):うっ血性心不全