2020 年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1。
心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。
これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。
本連載では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 12 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。
第 1 回は「本ステートメントの要旨」と「序論」について紹介する。

本ステートメントの要旨
心筋症は雑多な心筋疾患の集まりであり、その原因は不明であることがほとんどである。心筋症は猫においてよく発生する。心筋症に罹患した猫の中には、心筋症が臨床的に大きな問題を起こすことなく普通の寿命をまっとうする猫がいる一方で、うっ血性心不全、動脈血栓塞栓症、あるいは突然死が発生する猫もいる。
猫がどの心筋症に罹患しているのかを分類することが困難な場合がある。そのため、このステートメントにおいては、心臓の構造的および機能的特徴(フェノタイプと呼ぶ)に基づいた心筋症の分類法の概要を説明する。
また、このステートメントにおいては、猫の心筋症をステージ分類することを導入する。ステージ分類の特徴の一つは、心筋症に罹患した猫が無徴候である場合に、生命を脅かす合併症が発生するリスクが低いか、あるいはより高いかに分類することである。
さらに、このステートメントにおいては、現在得られる文献を基にして、猫の心筋症の診断およびステージ分類のためのアプローチやステージごとの治療に関する推奨項目を示す。