2019年、米国獣医内科学会(ACVIM)により犬の粘液腫様僧帽弁疾患(MMVD)の新たなガイドラインが策定された※1

犬のMMVDは、最も頻繁に認められる心疾患であり、無徴候期間が長く、生涯にわたり無治療で経過する症例も存在すれば、うっ血性心不全や死亡に至る症例も存在する。

これらの臨床ステージの重症度の評価法や治療法は日進月歩であり、2009 年に本疾患について初めてのガイドラインがACVIMから報告されて以降※2、多くの臨床研究が実施されてきた。

本連載記事では、12 回にわたって、2019 年にACVIMより報告された「犬のMMVDの診断・治療ガイドライン(2019 ACVIM コンセンサスステートメント)」を要約して掲載するとともに、重要と思われるポイントに解説を加えていく。

第10回は第 6 章「6 | GUIDELINES FOR DIAGNOSIS AND TREATMENT OF MMVD」のステージ Dの食事療法にあたる箇所の翻訳を記載する。

ステージ Dのガイドラインの概要

ステージ Dは、MMVD ステージ Cの心不全に対する標準的治療を実施しているにも関わらず、心不全の臨床症状の管理が困難な難治性の心不全患者のことを指す。心不全の臨床症状のコントロールに、利尿剤としてフロセミド 8 mg/kg/日以上または同等量以上のトラセミドの投与が必要であり、その他の薬剤が標準的投与量で既に併用されている場合(例: ピモベンダン 0.25~0.3 mg/kg bid、ACEIの標準的投与量、スピロノラクトン 2.0 mg/kg/日)、ステージ Dと判断される。また、洞調律の維持や心房細動のレートコントロール(1日の平均心拍数 <125 回/分)を目的とした抗不整脈薬が必要な場合は、難治性と判断する前に使用するべきである。

ステージ Dにおける薬剤の有効性と安全性を検討した臨床試験はほとんどない。その結果、治療選択肢は多岐にわたり、従来の内科的治療に抵抗性のある心不全を治療している循環器内科医が治療選択に悩むこととなっている。臨床試験のエビデンスが比較的少ないことと、末期心不全患者の臨床症状が多様であることから、ステージ Dの患者に対する個々の薬理学的治療法や食事療法の開始時期や治療法に関する有意義なコンセンサス・ガイドラインの作成は困難である。

外科的治療である僧帽弁形成術は、ステージ Dの症例に対しても実施されており過去の報告においては周術期死亡率の上昇と生存率低下に関連していると考えられているが、可能であり実行可能な場合は適応となる。