2019 年に、免疫介在性溶血性貧血(immune-mediated hemolytic anemia:IMHA)の診断・治療に関するコンセンサスステートメントがアメリカ獣医内科学会(American college of veterinary internal medicine:ACVIM)より発表された。IMHAは赤血球に対し自己抗体が産生されることで発症する代表的な免疫介在性疾患であり、特に犬では溶血性貧血の原因として一般的であること、貧血以外の合併症も多く致死率が高いことから、その診断・治療の理解は重要である。
コンセンサスステートメントは、診断編と治療編の 2 部構成となっている。
・ACVIM consensus statement on the diagnosis of immune-mediated hemolytic anemia in dogs and cats.
・ACVIM consensus statement on the treatment of immune-mediated hemolytic anemia in dogs.
診断編は犬と猫に関する記述であるが、治療編は犬のIMHAに限定されている。猫のIMHAの発生率は犬に比べ低く治療に関する情報が少ないこと、また病気の特徴も異なることから、犬の治療編の内容を単純に猫に外挿することはできない点には注意が必要である。
連載第 2 回目は、球状赤血球、赤血球自己凝集について解説する。

貧血が免疫介在性疾患であることを示すサイン:球状赤血球の増加(図1)
猫の赤血球はセントラルペーラーが常に観察されるわけではないため、球状赤血球の増加をIMHAの診断基準として利用できるのは犬のみである。また、輸血用の保存血は球状赤血球の割合が高いこと、ヒトでは輸血の溶血性副反応と球状赤血球の増加の関連性が議論されていることから、輸血実施後の症例における球状赤血球の評価は慎重を期すべきである。
血液塗抹を観察する際、引き終わりに近い塗抹の薄い部位や逆に厚い部位では、球状赤血球様のアーティファクトが生じてしまうため、血球が単層になっている最適な観察部位で評価すべきである。貧血症例の血液塗抹は赤血球密度が疎になりやすいため、アーティファクトを防ぐためにも、塗抹の薄い部位ではなく、やや厚みがあり血球が単層になっている部位を選択し評価する。
球状赤血球の増加は赤血球浸透圧脆弱性を亢進させるが、浸透圧脆弱性試験は球状赤血球以外の要因(例:高脂血症、赤血球年齢)にも影響を受けるため、IMHAの診断における日常的な検査としては推奨されない。
球状赤血球の出現頻度をどのポイントから増加と判断するかを検討した研究では、油浸レンズ(対物レンズ倍率 100 倍)1 視野あたりの球状赤血球 ≧ 5 個を基準とした場合のIMHAの診断における感度は 63%(95%信頼区間:39〜84%)、特異度 95%(95%信頼区間:76〜100%)であったのに対し、1 視野あたり球状赤血球 ≧ 3 個を基準とした場合の感度は 74%(95%信頼区間:49〜91%)、特異度 81%(95%信頼区間:59〜95%)であった。したがって、「油浸レンズ 1 視野あたり球状赤血球 ≧ 5 個」が観察された場合は、IMHAの診断を支持する所見とみなされる。また 1 視野あたり 3〜4 個の球状赤血球が観察され、かつ、その他に球状赤血球の増加を起こしうる原因注1が認められない場合は、同じくIMHAを支持する所見と考えてよいだろう。球状赤血球の出現頻度は観察視野によってばらつきがあるため、複数視野(例:10 視野)の平均値を求めると真の出現頻度に近似できる。

図1 血液塗抹で観察された球状赤血球の増加
赤血球同士の密度が適切な観察部位を選ぶと、正常な赤血球がもつセントラルペーラーが立体的に観察され、球状赤血球との違いがより明確になる。
※注1
酸化障害、毒物、脾機能亢進、ピルビン酸キナーゼ欠損症、赤血球の機械的障害(例:細血管障害性溶血性貧血)など