エキノコックス(Echinococcus)属の寄生虫は、人体で幼虫(多包虫)が無性的に肝臓などで増殖し、放置すれば90%以上が死亡する深刻な多包虫症(エキノコックス症)の原因となります(※1)。
エキノコックス属には4種が知られていますが、日本でヒトのエキノコックス症の原因としては多包条虫(E. multilocularis)が最も重要とされています。

日本全国で検出されるようになった、多包条虫の虫卵

従来、ヒトのエキノコックス症は北海道の風土病とされ、1935年から1960年代まで礼文島に、さらに1966年から1980年までは北海道東部に限局して発生していると考えられていました。しかし、1980年代に流行地の拡大が確認され、1990年代後半には北海道全域に蔓延していることが明らかにされました(※1)。

一方、東北地方では多包条虫の流行地に居住したことのないヒトの感染例も知られており、エキノコックス症の感染拡大が懸念されていました。ヒトへはキツネが排泄した虫卵が土、埃、手、飲水などを介して感染するほか、イヌが排泄した虫卵を経口摂取して感染する経路が重要とされています。

2006年6月に埼玉県で捕獲されたイヌの糞便から、北海道外で初めて多包条虫の虫卵が検出されました(※2)。また、2014年3月に愛知県のイヌの糞便から多包条虫の虫卵が検出されたことが報告されました(※3)。さらに、2020年12月に愛知県衛生研究所からイヌの多包条虫に関する追跡調査成績が公表され、326頭を調べたところ3頭(0.92%)が陽性であることが報告されました(※4)。加えて、これまでヒトの感染源としてイヌのみが注目されてきましたが、北海道で飼いネコの糞便から多包条虫の虫卵が検出されて、感染源としてネコの役割についても注目されています(※5)。

このことから、道外でもイヌのエキノコックス症が拡大していることが示唆されるとともに、イヌに加えてヒトと距離の近いネコもヒトの感染源になりうる可能性が明らかになってきました。そこで今回は、イヌとネコのエキノコックス症に関する情報を提供したいと思います。