現在、日本ではイヌやネコ用のさまざまなペットフードが販売されています。中には獣医療目的のペットフードも開発され、まさに高度な獣医療の進展と歩調を合わせるように進歩してきた分野であると考えられます。

ペットフードの安全性を揺るがした、海外の過去事例
日本で販売される栄養補給などの一般的なペットフードの概要を表1に示しました。大きく分けてフードとトリーツ(おやつ)に分類され、さらに加熱条件と製品の形状からさまざまなタイプに分類されます。

ペットフードが広く用いられるようになって、品質が不良な製品も出回るようになり、世界的にペットフードによるペットの健康被害が問題視されるようになりました。
2007年3月にアメリカで発生した中国産のメラニン混入のペットフードによる数千にも上るイヌやネコの死亡事例は記憶に新しいことと思います。この事件を背景として、平成20(2008)年6月18日に公布された「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(ペットフード安全法)により、ペットフードの規制が行われています。法第2条第2項により規制対象となる「愛がん動物用飼料」とは、「愛がん動物(犬・猫)の栄養に供することを目的として使用される物をいう」と定義され、幅広にペットフード全体が対象となっています。

このように各国でペットフードの安全性を確保する法体系が確立されているものの、ペットフードに病原微生物であるサルモネラ属菌が混入し、その安全性を揺るがす事件も多数報告されています。例えばアメリカでイヌ用ドライフードにより軍用犬飼育施設のイヌ80頭中9頭が下痢等の症状を呈し、51 頭の糞便からサルモネラ属菌が検出されたことが報告されました(※1)。
またイヌ用生肉を与えたグレイハウンド繁殖施設のイヌ138頭中27頭が下痢などの症状を示し、51頭の糞便からサルモネラ属菌が検出され、10頭の子犬が死亡したことが報告されています(※2)。さらに、ペットフードに起因するヒトのサルモネラ症の集団発生も報告されています(※3,4)。
しかし、日本におけるペットフードの病原微生物の汚染状況については全く明らかにされていませんでした。そこで、倉敷芸術科学大学の湯川尚一郎准教授と共同研究で、イヌ用ペットフードやトリーツのサルモネラ属菌の汚染実態調査(※5)を実施しましたので、その概要をお知らせします。