家畜由来薬剤耐性菌調査の実施

先に述べた国際機関の活発な活動と同じ時期に、動薬検では家畜の病性鑑定材料から分離した野外流行株の薬剤感受性調査を毎年実施していました。これは1995年に施行された製造物責任(PL)法により、製造物に欠陥が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について規制が強化されたことを受けた対応でした(図1)


▲図1:JVARM設立までの経緯


動物用医薬品も製造物であり、その許認可を与えた農林水産省にも関連することから開始された薬剤耐性菌調査でした。一方、先に述べた1999年のWHO非公式会議により家畜由来の薬剤耐性菌調査体制が先進各国から非常に遅れていることを憂慮し、1999年から予備的に野外流行株の薬剤感受性調査に付加する形で健康な家畜由来薬剤耐性菌調査が実施されることに成ったのです。ここで基本的な形が整いJVARMが確立することになったのです。

JVARMが開始されて時間が経つにつれ、家畜に関する各種データが蓄積されてきました。しかし、獣医師の抗菌薬による治療対象であるイヌやネコなどの伴侶動物に関する調査体制は世界的にもごくわずかしか確立されておらず、残念ながらJVARMも対象としていませんでした。伴侶動物での薬剤耐性モニタリング制度が実施されなかった理由としては、まず使用する抗菌薬のほとんどが人体薬を適応外使用していることでした。つまり、使用実態が明確でなく、用法用量も不明であったことです。表1 に諸外国での伴侶動物に対する薬剤耐性モニタリングの実施状況を示しています³⁾。


ご覧のようにスウェーデンとフランスと英国でわずかに実施されているものの、定期的な調査体制には程遠い状況でした。ところが、2016年に公表されたわが国の薬剤耐性対策アクションプラン⁴⁾の一環として、2017年度から伴侶(愛玩)動物も調査対象に加えられ、JVARMは世界的に最も進んだ動物の薬剤耐性モニタリング体制となりました¹⁾。伴侶動物由来の薬剤耐性モニタリングの中核は「臨床由来株」とし、供試株は疫学的な観点から、原則として1株/菌種/動物病院として臨床検査機関を通じて収集しています。供試株数は各菌種について原則100 株とします。

大腸菌、コアグラー ゼ陽性スタフィロコッカス属菌、クレブシエラ属菌、腸球菌及びエンテロバクター属菌は毎年のモニタリング対象とし、緑膿菌、プロテウス・ミラビリス及びアシネトバクター属菌については、ローテーションを組んで数年ごとに対象とします。薬剤感受性試験は微量液体希釈法とし、供試薬剤はJVARM で実施している基本薬剤に、伴侶動物の臨床現場で使用されている抗菌薬を追加します。また、検査機関から収集される臨床由来株は、治療が難しい薬剤耐性株が選択されている可能性も考えられることから、薬剤耐性状況のベースラインデータを得るために、数年に1回程度「健康動物由来株」を対象としたモニタリングについても実施することになりました。

採材対象は、家庭で飼育されている健康なイヌとネコとし、ワクチン接種等のために動物病院に来院した際に、直腸スワブ等を採取して大腸菌及び可能であれば腸球菌も調査することになりました。なお、健康動物からの検体の収集については、日本獣医師会の全面的な協力をお願いしています。このコラムをお読みいただいている獣医師の皆様にもご協力をお願いしているものと思います。