各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。
「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第19回は佐藤雅彦先生です。
米国獣医内科専門医取得までの道のり
―佐藤先生はなぜアメリカで専門医取得を目指されたのでしょうか。
私は学部生時代、臨床系の研究室に所属していたため、学生の頃から臨床に出たのですが、飼い主と話をするにあたって、自分の知識がまったく足りていないことに気付きました。「さすがに、このままでは臨床で使い物にならない…。本気で勉強をしないと…」と思うようになり、臨床系の教科書はもちろんのこと、生理学や解剖学、薬理学などのテキストを読みあさりました。そうすると、知識と臨床現場で求められることがリンクしはじめ、それらがとても面白く感じるようになり、一気に臨床にハマってしまったのです。
そして、「どうせやるなら、世界基準で勉強したい! 世界で通用する臨床獣医師になる」と考え、獣医学の歴史が古く、獣医療先進国であるアメリカでの専門医資格を取得したいと思いました。
―資格の取得までの道のりは順調でしたか。
もちろん紆余曲折がありました。私は大学を卒業後、一般の動物病院で2年働き、それから大学院へと戻りました。というのも、臨床に身を置く獣医師として、必要となる経験や基本的な技術を一通り身につけておきたいと思ったからです。
大学院へ戻ることが決まり、いよいよ海外でのステップアップのために必要となる、実績づくりに入りました。当時取り組んでいたのはリンパ腫の研究で、さまざまな海外学会で発表を行うようにし、ありがたいことにたくさんの賞もいただき高い評価をいただけました。アメリカの大学へのvisitingも悪い感触もなく「これならアメリカのレジデントプログラムに選んでもらえる!」と思ったのですが……、残念ながら落選。まだまだ考えが甘かったですね(笑)。
大学院卒業後は、アメリカのフレッド・ハッチンソンがん研究センターで1年間ポスドクをすることにしました。ここは犬の骨髄移植の方法を開発しそれをヒトへと応用することでノーベル賞を受賞した科学者が在籍したところです。このセンターで、犬の骨髄移植のスキルを学ばせてもらいました。そして、再度、アメリカのレジデントプログラムに応募してみたのですが、それでもまだハードルが高く……。今となって考えれば当たり前と思えますが、どれほど研究実績を上げても、アメリカの専門医のもとでの臨床経験がないと評価されない現実に直面しました。
その頃、日本獣医学専門医奨学基金という機構ができ、運よく第一期生に選ばれることになりました。ここで認められれば、コロラド州立大学の一般内科でのレジデントになることができるチャンスをいただき、それを完遂することができました。
―アメリカにおける内科専門医の役割はどういったものか、教えてください。
内科には診断および治療が難しい症例が集まってきます。画像診断医、臨床病理医など各分野のプロフェッショナルが1つの症例に対してそれぞれが自分の分野で考えられる鑑別疾患をあげてきます。彼らと相談しながら議論の舵取りをし、その犬・猫の症状や病歴、各種検査内容などを総合して、最終的な判断をくだすのが内科専門医の役割です。
「私ひとりで治す」のではなく、「チームで症例を治す」というシステムなのです。もちろん、私たち内科専門医も画像や細胞診に関してある程度の知識を習得していますが、それらに関してはその分野の専門医にはかないません。内科専門医に求められるのは、診断や治療のスタンダードをすべて把握したうえで、エビデンスと経験に基づき、最終的な判断をする力……、このゴールまでのプロセスのトレーニングが、レジデントに課せられるわけです。
―先生の話をうかがうと、アメリカのシステムはとても合理的な印象を受けます
アメリカの先生は、ずっと同じ大学に在籍することがありません。さまざまな大学でインターンやレジデントとして勉強し、また別の大学で勤務することもよくあります。しかも、どこの大学にも専門医が複数人おり、細かいところにまで相互のチェックが入ります。ですから、“自分だけのやり方=自己流”は通用しません。どこでも通用するスタンダードな方法論があり、どの施設でも一定のクオリティが保たれるようになっています。どこの施設でも高度に平準化された獣医療が提供されることは、飼い主や症例のみならず、臨床獣医師にとっても何より重要なことと思います。