日本から世界に発信する臨床研究

―今後の日本の獣医療は、どのように発展していくとお考えですか。
 システム構築の観点からすると、アメリカは日本よりずっと先行しており、日本のシステムは発展途上といえます。そこで、逆転の発想とはなりますが、先行するシステムのよいところを取りながら、日本およびアジアの専門医制度がよりよく整備されていければいいかなと思います。アジアの専門医制度が本格的に動き出し、各分野での専門医の数が増えれば、日本の獣医療でも“チーム獣医療”を実現することが可能かと思います。

 また、日本で臨床研究がもっと盛んになればと考えています。獣医療における臨床研究は世界的にも乏しく、手つかずの分野が山のようにあります。私は一次診療と二次診療が共同で研究を進めれば、大きな成果が上がっていくと考えています。と言うのは、大学をはじめとした二次診療施設は特殊な症例が主体となり、一般的な症例は一次診療施設にたくさん集まっています。日本の開業医の先生方で、慢性腎臓病や糖尿病だけで二次診療に紹介してくるケースは少ないですもんね(笑)。一次と二次診療の垣根を越えて一緒に症例を集めれば、面白い臨床研究がたくさんできるはずです。そして、その臨床研究が活発になれば、日本から世界に向けた情報発信量も増えていくと思います。
 臨床研究では「有意差がみつかった」「よい治療法をみつけた」ことももちろん重要ですが、「やってみたけど有意差が出なかった」「この治療法には意味がない」という研究も同じくらい重要だと思います。臨床現場では、よいのか悪いのか、よくわからないまま行っていることがたくさんあります。それを「やらなくて済む」ということがわかるだけでも、症例や飼い主だけでなく、臨床獣医師の負担も減るという、素晴らしい結果が導かれます。


―若手の先生方、特に海外を意識している先生方にメッセージをお願いします。


 自分が行っている診療が本当に正しいのかわからないと悩んでいるとき、そんなときこそ、論文や成書を読んだり、専門医や経験のある先生に意見を求めるなど、見聞を広める努力をしていただきたいです。「忙しいから、とりあえずこれをやっておけばよい」ではなく、オープンな気持ちで、自分から知識・知見を求めていく姿勢が、能力を伸ばすと思います。
 あとは“飛び込む勇気”です。アメリカで専門医になる道は一つではありませんが、専門医のもとで臨床経験を積み、専門医の先生に推薦状を書いてもらうのが一番確実だとは思います。いずれにせよ、現状に疑問を感じているなら同じ場所にとどまらず、新しい環境に飛び込んでいく勇気は必要だと思います。


―日本人であれば、おそらく誰もが直面するであろう英語の壁について、佐藤先生はどう克服されたのでしょうか。
 英語はね、海外に行けばなんとかなりますよ。発音なんか気にせず、積極的にコミュニケーションをとることが一番の早道です。こちらが一所懸命であれば、向こうの方も発音などはまったく気にされていませんでした(笑)。


佐藤 雅彦

2005年3月          岩手大学共同獣医学部 卒業
2005年4月~2007年3月 東京都の一般病院にて勤務
2007年4月~2011年3月 東京大学大学院
2013年8月~2018年7月 コロラド州立大学大学院および小動物内科レジテントプログラムに従事
2018年7月          米国獣医内科学会 小動物内科専門医取得
2018年9月          獣医師・獣医学博士・米国獣医内科学専門医(小動物内科)東京大学附属動物医療センター 特任准教授

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