各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。
「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第9回は細谷謙次先生です。
総合的診断から関わる面白さ
―細谷先生が腫瘍科を専門にされたのはどのような理由からですか?
北海道大学に在籍のころは外科をやりたいと思っていました。そこで廉澤剛先生に師事していたのですが、廉澤先生の診療は腫瘍が絡む症例が多いので(笑)、自然と腫瘍に興味が出た、というのが始まりです。
当時、腫瘍の治療は外科的な処置が多かったのですが、放射線治療と組み合わせないと効果が上がらない症例もたくさんあったことから、放射線治療を本格的に学びたくなり渡米、オハイオ州立大学に在籍することになりました。 オハイオ州立大学では放射線腫瘍科のレジデントになったのですが、腫瘍科の先生と話をする機会も多く、やがて腫瘍血液内科のレジデントも掛け持ちすることになりました。
そこでの診療では、当時日本ではあまり馴染みのない抗がん薬を使う症例もたくさんあり、かなり戸惑った記憶があります。またこの症例は外科治療でいくのか、放射線も併用するのか、抗がん薬を使って腫瘍を小さくしてから手術すべきかといった判断も必要にもなりました。当時はわからなかったことも多く、必死になって先輩レジデントを質問攻めにもしました(笑)すると、どんどん面白くなってきました。というのも、予め診断がついた腫瘍疾患に対応するだけでなく、総合的な診断から治療に関わることができたからです。
当時の指導医であったGuillermo Couto先生は内科と腫瘍内科の専門医で、腫瘍だけでなく体全体を診る内科学を大切にする人でした。また、Cheryl London先生は免疫学や分子標的療法の第一人者であり、外科出身の私には足りない視点が新鮮であったとともに、「やばい!もっと内科を勉強しないといけない!」とCouto先生の著書であるSmall Animal Internal Medicineをそれこそ表紙から最後の裏表紙まで何度も読み込みました(笑)
―Small Animal Internal Medicineはとてもわかりやすく、日本語版もベストセラーとして人気の書籍です
アメリカの獣医学本は、非常に硬いというか文字通り“教科書”ですよね。写真や図版は極めて少なく、文字ばかりのものが多いです。それこそ論文にも引用ができそうなくらい細部も正確に執筆されている印象です。
一方Small Animal Internal Medicineは、“わかりやすく、獣医内科学の考え方を学べる”読み物として読むことができます。Couto先生はユーモアが溢れている方ですので、その性格がそのまま反映されている書籍ですね。入門書としては最適だと思います。ここで知識を蓄えて、とっつきにくいより詳しい書籍へとレベルアップしていくのが良いでしょう。