英語での研究報告、世界中の動物をも救える希望に

―これまでのお仕事の中で、どんな場面で特にやりがいを感じられますか?
 教育者として卒業生たちが活躍している様子を伺ったときはもちろんですが、研究者としては動物医療に貢献できることに大きなやりがいを感じます。特に私は臨床研究がメインとなりますので、自身の研究によって、直接的に動物を助けられるからです。印象に残っているのは、アメリカ・インディアナ州のバデュー大学留学時に参加したACVIM(米国獣医内科学アカデミー)での出来事です。糖尿病治療に関する講演の中で、内分泌分野の著名な先生が「この研究が本当に素晴らしいものなんだよ!」と(「クレイジーな研究なんだけどね!」とも)、興奮気味に話しておられました。それが実は、我々の研究室が報告した「超長時間型インスリンによる治療効果」に関する論文だったんです。

 実はアメリカにおいて、糖尿病は飼い主さんが安楽死を選ぶ確率が高い慢性疾患の1つ。生涯にわたりインスリン注射がなければ生きていけないことが、「人間によるエゴ」と捉えられることが多いのが、安楽死を選ぶ大きな要因だそうです。しかし、ACVIMの講演では、我々の研究データを参考にして、1日1回の投与で済む新規のインスリン注射での治療を勧めたところ、「治療を前向きに考えてくれるようになった飼い主さんがいた」と話されていました。この講演を聞いたとき、「研究成果を世界に向けて発信することで、糖尿病のように管理の難しい慢性疾患を患った世界中の動物を救えるかもしれない」と希望を感じました。そして、「今まで研究を続けてきたことは間違っていなかった」と思った瞬間でもありました。