白熱したパネルディスカッション

戸次先生、森先生が紹介した症例では、「術後の再脱臼はなかった」と報告されました。
そこで、本阿彌先生から次のような質問が投げられました。

「再脱臼しなければ手術は成功と思って良いのだろうか?」
本阿彌先生が紹介した症例では術後の再脱臼が数パーセント存在するとのことでしたが、これは、膝蓋大腿関節の機能再建を重視しているからだそうです。

「骨ノミで削って溝を作り、膝蓋骨を押し込んで外れないようにする方法は、たしかに再脱臼率が低い。しかし、膝関節本来の機能を無視している。関節軟骨はなるべくメスをいれずに温存する必要がある」とのことでした。
これに対し、森先生は「今回紹介した手技は、膝蓋骨脱臼によって起こる事象(疼痛、跛行などの)を、対症的に治療することを目的・大前提としている」と述べました。
滑車溝は関節を外れないようにするためのものであり、滑車形成を選択する時点で、“機能回復”や“再建”の定義から外れているのではないか、ということでした。
戸次先生は、「森先生の意見と概ね一緒だが、この手術によって膝関節の機能を壊していることは確かである。パテラの機能の一つである『スムーズに膝関節を伸ばす』という機能を改善できているため現状の手技を続けているが、改良が必要である」と述べました。

現在、犬の滑車の正常形態は明らかになっていないそうです。
どの程度で滑車の低形成と診断され、滑車溝を形成する必要があるのか。
もしくは低形成ではないと診断され、機能回復が可能であるのか。
これらが解明されると、手術成績の向上や関節の再建も目指せるとのことでした。