命を救うだけが、すべてではない 飼い主の心に寄り添える救急医に

―改めてお聞きしたいのですが、先生は救急・集中治療のどんなところに魅力を感じてこられたのでしょうか。
 「動物の命を救いたいから」という理由で獣医師になったという人は多いと思いますが、その最前線にいられるのが、救急・集中治療の魅力の一つだと思います。

 ただし、その一方で「命を救うことだけがすべてじゃない」ともよく考えます。飼い主の気持ちに寄り添い、「命を救うためにはこういう治療が必要ですが、割とハードな治療内容になります」、「治療費はこのくらいかかります」など、丁寧に話し合って最善の治療
方針を決めていけるコミュニケーション能力も、救急医に必要なスキルだと考えています。


―若手への指導でも、飼い主の心に寄り添うコミュニケーションを大事にされているのでしょうか。
 はい。また、「何事もすごくバランスが大事だ」ということも、よく話します。診療一つとっても、救急医は内科も外科も麻酔も検査も、バランスよくすべてができないといけないと思います。

 もう一つ大事にしているのは、「全体でみる」ということです。例えば、一つの異常値にこだわりすぎるのではなく、ちょっと引いてその症例全体をみる。さらに飼い主の気持ちも含めて、広く客観的に全体をみられるかが、正しい判断ができるかどうかの分かれ目になります。そのときの判断の正しさというのは、医学的な正しさを求める場合もあるでしょうし、飼い主の心に寄り添った正しさもあるのだと思っています。

 一般の病院でも同じように考えておられる部分があるとは思うのですが、スタッフには救急医なりの考え方や捉え方を学んでもらい、「ここに来てよかった」と人生のどこかで感じてほしいなと思います。この「ここに来てよかった」は、私がいつも心の中心に置くようにしている言葉です。飼い主はもちろん、かかりつけ医の先生方、スタッフなど、TRVAにかかわるすべての人と動物に、「ここに来てよかった」と感じてもらいたいと心から願っています。


―最後に、若手の先生方へのメッセージをお願いします。
 臨床を楽しんでほしいですし、一度は救急・集中治療の現場を見に来てくれたら嬉しいです。若いうちに救急・集中治療の現場に触れ、治療の進め方や飼い主とのコミュニケーションの取り方などを学ぶことは、臨床医としての成長にきっとプラスになると思いますから。そうして救急・集中治療の魅力が日本でもっと広まってほしいですし、若い先生たちが「一度は自分も経験・挑戦をしてみたい」と思えるジャンルになってくれたらいいなと思います。


塗木 貴臣

TRVA夜間救急動物医療センター 院長

【経歴】
2009年 日本獣医生命科学大学卒業
2010~2011年 埼玉県内の一次診療施設勤務
2011~2013年 東京都内の一次診療施設勤務
2013年~ TRVA夜間救急動物医療センター勤務
2015年~ TRVA夜間救急動物医療センター 副院長
2022年~ TRVA夜間救急動物医療センター 院長

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