発展途上の獣医療、貪欲な学びこそが道を拓く

―常に新しいことを学び続ける大森先生にぜひお伺いしたいのが、先生の学びの方法です。どのような方法で学んでおられるのでしょう。
 最近特に注目しているのはSNSです。SNS上ではさまざまな方が獣医療の論文を紹介されているのですが、アブストラクトを読むより分かりやすいですし、重要キーワードにハッシュタグがつけられているので、情報収集・発信が非常に効率的に行えます。ただし、紙ベースの情報を軽視しているわけではありません。先端情報を知るために論文はよく読みますし、ジェネラルな情報を知りたいときは成書も読みます。雑誌も深く広く知るにはとても有用で、学生時代から愛読してきたSA Medicineは今もずっと読み続けています。


―近年の臨床現場の変化の方向性については、どうお感じになっていますか。
 飼い主さんの想いが、どんどん「重く」なってきていますよね。私が所属する二次診療の病院の世界だけでみても、「できる限りの検査を行って診断をつけ、できる限りの治療を施したい」と願う飼い主さんがかなり増え、1頭あたりの診療費も上昇傾向にあると思います。そうした飼い主さんの切実な願いに応えられるよう、我々獣医師は知識や技術を常にアップデートし続けなければならないと思いますし、卒後教育を充実させて人医学領域のシステムに近い形に進化させていかねばならないと考えています。


―では最後に、第一線で働く獣医師の皆さんに向けてのエールをお願いします。
 現場で働く人を大事にすること、そしてワークライフバランスを充実させることが重要だと思います。その一方で、貪欲に学び続けることの大事さも忘れないでほしい。「これは自分の専門外だからやらない」と縮こまってしまうのではなく、興味をもったことをどんどん勉強していく人にこそ、新たな未来が拓かれていくのだと思います。

 特に一次診療の現場は、内科も外科もありません。「異種格闘技戦」によくたとえるのですが、ジャンルにこだわらずにさまざまな知識と技術を磨く必要がありますし、そうして動物の命を助けられるということが、実は臨床獣医師として一番、充実感が得られる部分だと思います。


大森 啓太郎

東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門 准教授、農学部共同獣医学科 博士(獣医学)、アジア獣医内科学専門医(内科)

【経歴】
2002年 日本大学生物資源科学部獣医学科 卒業
2004年~2006年 日本学術振興会特別研究員
2006年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 博士課程修了
2006~2007年 National Jewish Medical and Research Center

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