本年1月に発刊された「犬の僧帽弁閉鎖不全症」の姉妹誌として,5月1日に「犬と猫の心疾患の薬物療法」を発刊いたしました。本書籍は総勢25人の専門家により,各診療施設における「心疾患の薬物療法」の取り組みについて紹介しています。この1冊で基礎的な薬理作用から実例を用いた薬剤の有用性について網羅しています。
「犬の僧帽弁閉鎖不全症」に引き続き,本書籍の監修者であるの田中 綾先生(東京農工大学 獣医外科学研究室 教授)に本書籍の見どころについて,お話を伺いました。
〈聞き手:エデュワードプレス社長 太田宗雪〉

僧帽弁閉鎖不全症の治療をパターン化するのではなく,正しい病態評価を実施したうえで適切な治療を行ってほしい。

――まずは,本年1月に発刊された「犬の僧帽弁閉鎖不全症」の位置づけと特徴について教えてください。
僧帽弁閉鎖不全症の治療法は必ずしも同じではありません。症例によってさまざまな治療法の答えがあると考えています。
本書では,僧帽弁閉鎖不全症の病態評価はもちろん,日本各地の診療施設における実例を用いた治療法を紹介しています。一つの治療法にとらわれずに,さまざまな選択肢があるということを参考にしてもらえる内容になっています。


――実例のなかでも,外科治療について多く取り上げていますね。
今まで僧帽弁閉鎖不全症の治療は,基本的に内科治療が主体でしたが症例数が多いということもあり,近年,外科治療がかなり普及してきています。しかし,費用面や技術面の問題もあり,外科治療を実施する獣医師はごく一部であるということが現状ですね。
それでも,ホームドクターは飼い主さんに治療法を提示するうえで,内科治療と外科治療それぞれの特徴をきちんと把握してインフォームする必要があります。外科治療を実施するしないにかかわらず,この本をインフォームツールとして活用できるように外科治療に重きをおいて詳細に説明をしています。



――読者にぜひ読んでもらいたいポイントはどこでしょうか?
僧帽弁閉鎖不全症は症例ごとに病態評価を行い,適切な治療法を見つけ出すことが重要です。しかし,僧帽弁閉鎖不全症の診断自体はできていても,病態評価に不安がある獣医師は多いと思います。そのため残念ながら,多くの獣医師が病態評価をしっかり行わずに「僧帽弁閉鎖不全症にはこの薬を処方しよう」などと治療をパターン化してしまっています。
本書のパート1では,まず僧帽弁閉鎖不全症を診断するうえで,必要な検査とその方法について解説しています。さらに検査結果をふまえた病態評価について一つずつ詳細に解説しています。とくに心エコ―図検査に関しては,診断するうえで行ってほしい評価方法を紹介しています。3D心エコー図検査以外は一次診療でも行える検査なので,ぜひとも実践してもらいたいと思います。まずはパート1をじっくり読んでもらい,正しい病態評価を行えるようになってもらいたいですね。