2022 年 11 月 19 日~20日、大阪市内で「第 43 回動物臨床医学会年次大会(動臨研)」が開催され、日本全国から 1,561 名の参加者が集まりました。3 年ぶりのリアル開催とあって、会場内は熱気にあふれ、質疑応答も活発。対面発表ならではの盛り上がりが、水準の高い臨床報告が集結する動臨研の魅力を浮き彫りにしました。

本連載では、90 本弱もの発表があった今回の動臨研の講演のうち、EDUWARD Pressの編集者(獣医師含む)が特に注目した発表をピックアップ。その見どころをご紹介します!

パネルディスカッション:リンパ腫における腫瘍随伴症候群の病態と対策―血球貪食症候群―

【概要】

辻本 元先生(日本動物高度医療センター)、井手香織先生(東京農工大学)、諏訪晃久先生(すわ動物病院)の3名による、リンパ腫における腫瘍随伴症候群についてパネルディスカッションが行われました。その一環として、諏訪先生が血球貪食症候群についてご講演をされました。

血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)は、高サイトカイン血症が引き起こされた結果、増加した活性化組織球系細胞が自己の血球を貪食する、という機序で生じる疾患・病態です。

リンパ腫における腫瘍随伴症候群の一つですが、獣医療の臨床現場でHPSであると診断されることはほとんどありません。

諏訪先生はその原因として、HPSの認知度が低いこと、診断方法が人医学領域と異なり確立されていないことを挙げました。

HPSは発症後に急速に病状が悪化し、非常に予後が悪いため、諏訪先生は「早期診断を可能にするためには診断基準の統一が重要である」とし、その基準項目について考察しました。


HPSとは?

そもそもHPSとはどのような疾患・病態なのでしょうか。諏訪先生は、以下のように説明しました。

人におけるHPSは一次性、いわゆる遺伝性のものと、基礎疾患(リンパ腫・感染・自己免疫疾患など)から続発した二次性のものに大別されます。

獣医学領域においては一次性のHPSは認められておらず、二次性のものについていくつかの報告があります。

二次性のHPSでは、リンパ腫などが原因となりサイトカインストームが生じることで、制御することができない免疫系の活性化が起こり、自己の血球が貪食・破壊されます。

リンパ腫の腫瘍随伴症候群として、高カルシウム血症やDICは一般的に知られていますが、HPSはまだまだ認知度が低いマイナーな病態です。

しかし、発症してから 1 週間以内に死亡するケースが多かったり、リンパ腫治療としての抗がん薬投与が行えない状態に陥らせてしまうなど、その病状は深刻です。

諏訪先生は、「HPSは急速な転帰をとる可能性が高い疾患・病態であることから、獣医師が早期診断し、飼い主にインフォームできるよう理解を深めておくことが何よりも重要であると考えます」と話しました。


左から井手香織先生(東京農工大学)、辻本 元先生(日本動物高度医療センター)、諏訪晃久先生(すわ動物病院)