日本発の研究で世界の循環器診療に貢献したい

―― 鈴木先生の大学院時代の研究内容、そして現在の研究に至るまでの変遷を詳しくお聞かせください。

大学院時代から、心エコー図検査の中でも臨床で一般的に使われている心臓の大きさなどの指標だけではなく、より病気の根幹や根本的な心機能の解明に迫る指標の研究を続けてきました。複雑な循環器疾患を解明するためには、病態や重症度の詳細な把握が不可欠と考えているからです。これらがやっと実を結びつつあり、私の研究チームでは近年比較的多くの論文を発表できていますが、やはり臨床において有用な指標を生み出していきたいという考えがあり、論文で解明してきたものを、少しずつ臨床現場に落とし込んでいる段階です。

―― 心疾患のガイドラインなどの指標は、どんどん新しいものにアップデートしていく印象があります。

医学の研究というのは全てそうなのかもしれないですね。次々に新しいデータが出てきて、取捨選択されて臨床に役立つゴールドスタンダードができていくのではないかな、と。
ただし、ガイドラインは「頼るもの」のではなく、「上手く使うもの」。診療を標準化できるという良い面も当然ありますが、日本の先生はガイドラインを遵守する意識が強すぎる傾向にあることを、少し懸念しています。例えば、心拡大の指標などの数値を出すことのみにこだわってしまうと、「数値がこうだから治療はこうしよう」など、形骸的な診療に陥ってしまうのではないでしょうか。必ずしも全ての症例が、ガイドラインに当てはまるわけではありません。特に診断に関して、一般的によく使われているのは国際的なガイドラインなので、海外よりも小型犬の症例が多い日本の実情にそぐわないこともあります。さらに言えば、その症例の臨床徴候や、肝臓や腎臓の疾患など他の病態が影響している可能性も十分に検討するべきだと思います。また実際の治療に関して、個々の難治性心疾患では個別の治療対応(テーラーメード治療)が必要となるケースも多いと感じています。


―― そうしたお考えが、現在の研究内容にもつながっているのでしょうか?

はい。今の獣医療のガイドラインにはない、心臓の機能やもっと疾患の根幹に沿うような指標があると良いなと考えています。日本発のエビデンスで世界の循環器診療に貢献できるような研究を目指したいです。また、日本の症例傾向や実態に合わせた日本版ガイドラインなどがあると、より日本の循環器診療を良くすることができるのではないかと考えています。

―― 具体的にはどのような研究に取り組んでおられるのでしょう?

どのような機序でその疾患が発現するのか、なぜ病態が進行してしまうのかなど、病態や重症度の把握を実際の臨床症例に活かせるような研究に取り組んでいます。例えば、僧帽弁閉鎖不全症や心筋症、肺高血圧症といった、臨床で多く遭遇し、先生方が診断や治療に苦戦するような疾患をターゲットとして、病気の原因となる遺伝子解析や心筋運動解析、詳細な血行動態解析も行っています。そうした病気の根幹に迫れるような診断ツールを開発することで、病態や重症度を早期に、しっかりと把握し、より高精度な治療計画を組み立てやすくなるのではないでしょうか。また高度な治療方法として、インターベンション(カテーテル治療)や新規治療薬による治療にも力を入れており、以前の研究に比べると、より診断や治療に直結するものにシフトしてきました。テーラーメードな最先端の治療を取り入れつつ、日本発のエビデンスで世界の循環器診療に貢献できるような研究を目指したいです。

―― 研究の幅が大きく広がっているのですね。
はい。より多くの犬や猫の命を救い、飼い主さんに頼られる獣医師になりたいというのが私の原点です。そこに立ち返り、まず目の前の犬猫や飼い主さんに幸せをもたらすとともに、研究結果を世界に発信し、獣医療を発展させることで、目の前だけではない多くの患者さんに役立つ、そんな研究に幅広く取り組んでいきたいと思っています。