これからの獣医療はどうなっていくのか。
そして、獣医師は今後どのように学んでいくべきなのか。

インタビューシリーズ「獣医療のミライ」では、
各分野で活躍する新進気鋭のスペシャリストたちに、
研究や臨床から得た経験をもとにした
未来へのビジョンや見解を語っていただきます。

第10回は日本獣医生命科学大学獣医内科学研究室講師の鈴木亮平先生です。

飼い主に信頼される、
オールラウンダーな獣医師への憧れ

―― まずは、獣医師になろうと思われた経緯を教えてください。

父が獣医師であり、実家が動物病院というのが、一番大きく影響を受けた部分だと思います。父は地域のホームドクターなので、生まれたばかりの犬・猫から 20 歳以上の高齢動物までさまざまな症例が来院しますし、ワクチン接種や皮膚疾患の診察、骨折なども多い一方で、複数の病気が組み合わさった複雑な内科疾患などの難易度が高めの症例にも対応するなど、診療の幅が本当に広かった。それをみて、「飼い主を含む多くの人を笑顔にするやりがいのある仕事なんだな」と思ったことが、獣医師を目指した最初のきっかけです。飼い主さんから、「あの病院なら何とかしてくれる」と深く信頼されていた両親の姿を間近にみて育つことで、「飼い主さんに頼られる獣医師」というのが自分の目標になりました。そして、父のように幅広く診療する、いわゆるオールラウンダーな臨床獣医師が、私が最初に描いた理想形になったのだと思います。

―― 鈴木先生は今、研究、教育、診療とさまざまな仕事に取り組まれています。循環器分野のスペシャリストに特に興味をもたれたきっかけは?

大学時代は卒業後の進路として一次診療施設での勤務を考えていたのですが、ちょうどそのあたりの時期から、専門診療科を備えた一次診療施設が増えてきたのを感じていました。それで、自分も何か強みを持ちたいと考えるようになり、学生時代の研究室入室をきっかけに、循環器の勉強を始めたんです。循環器疾患は実際の臨床現場で多く遭遇しますし、病態や重症度の把握、そして治療方針の策定が、症例のその後に直結することにやりがいがあると感じたことが循環器を選んだ理由です。循環器の勉強を始めたら、学問としても非常に面白くて、どんどんとハマっていきました。
大学院でも心エコー図検査を用いて、循環器疾患の病態や重症度を評価する研究に取り組みました。研究を通じて、獣医療だけでなく人医療の研究に従事されている先生方とも関わらせていただいたのですが、新しい診断や指標の考案、新しい病態の解明などクリエイティブな研究を志す先生方がとても多かった印象です。中でも、「心臓本来の根本的な機能の基礎的検討」から、「心臓病になってしまった場合に臨床的な心臓の機能がどのようにして悪くなっていくかを解明する」といった、基礎から臨床に至るまで幅広い分野の研究に取り組んでおられる先生方に大きく影響を受け、循環器分野の研究の醍醐味をより一層強く感じるようになりました。

―― 大学院卒業後は、一次診療施設で臨床に携わっておられたそうですね。

はい。勤務医時代、そして大学にきてからの総合診療科時代は、まさに私の理想とする、どんなことでもなんとかしてくれるオールラウンダーな臨床獣医師を目指して全力で取り組んだ時期でした。このときに、循環器を専門としつつもそれ以外のさまざまな疾患の診療を学べたことは、今の教育や臨床分野の仕事でも生きています。特に、獣医内科学の講義や実習では問診や身体検査から始まるような内容も扱いますから、臨床現場の体験談を学生たちに話すことも多く、より臨床の現実に寄り添った教育をするために役立っていると感じています。
また、動物医療では人医療ほどの細分化がされていませんし、循環器科といっても循環器疾患以外の症例も来院します。一次診療施設での臨床経験により、循環器だけでなく、目の前の動物の状態を総合的に判断し治療につなげられていると思います。