One Healthについては、いろいろな学会やセミナーでよく使われる言葉であることから、皆さまはすでにご存じかと思います。今年 11 月 11 日~ 13 日、福岡市で日本獣医師会獣医学術学会年次大会と同時に第 21 回アジア獣医師会連合(Federation of Asia Veterinary Association:FAVA)大会が開催され、その大会のテーマが、「One Health approach from Asia」でした。

このようにOne Healthは、すべての獣医師が取り組まなければならない世界的な課題となっています。特に日本はアジアで唯一、G 7 に参加している国であり、アジアの獣医学発展のためにリーダーシップを発揮することが期待されています。
そこで今回は、十分に理解されていることだと思いますが、FAVA大会の開催を契機に、今一度皆様のOne Healthの認識を確認していただきたく、その歴史や意味を考えたいと思います。

One Healthと世界での取り組み

One Healthは、人と動物そして環境の関係における総合的な健全性を表す考えをいいます。この考えが急速に広がった理由は、急激な環境の変化やグローバリゼーションを背景とした、人獣共通感染症の世界的な流行が考えられます。エボラ出血熱や、重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:SARS)、中東呼吸器症候群(Middle East Resporatory Syndrome:MERS)、高病原性鳥インフルエンザ、そして今なお人類を苦しめている新型コロナウイルス感染症などは、開発や人口増加を伴う動物と人との接触機会の拡大や発達した交通網による感染者の移動によって、急速かつ世界的な拡大へと繋がりました1)
人獣共通感染症は主に動物に由来するので、その対策として従来のように感染した患者を治療することだけでは不十分であり、動物への対策も必要不可決なのです。


このような状況下で人と動物と環境の関係改善を図り、それぞれの健康を維持・推進させなければ今後も人獣共通感染症の大流行は防ぐことができないとの思いで、One Healthの重要性が認識されるようになったのです(図 1)。具体的な対策としては、それぞれの人獣共通感染症について人と動物と環境との関連性を明らかにし、その感染経路を遮断することです。


図 1. One Healthとは?(著者原図)


そもそもOne Healthは、2004 年 9 月にアメリカのニューヨーク市マンハッタン地区で開催された、人と動物の感染症の現状と感染拡大の可能性に関する国際会議に由来しています2)。そのときに標語として使用されたのが、「One World, One Health」でした。これは開催地名に由来して、「マンハッタン原則」とも呼ばれています。この考えが世界的に広がったのは、国際会議に参加していた世界保健機関(World Health Organization:WHO)などの国際機関の活動にありました。


さらに世界的な共通認識となったのは、2015 年 5 月に人医療における世界的な薬剤耐性菌の蔓延を背景にWHOが採択した「薬剤耐性グローバルアクションプラン」で、戦略的な目標を達成する基本的な考えを「One Health approach」としたことでした。グローバルアクションプランでは各国で独自のアクションプランを設定することが勧告されていたことから、わが国でも 2016 年 4 月にOne Healthに基づく「薬剤耐性対策アクションプラン」を公表しました。
加えて、2016 年 11 月に北九州市で世界医師会と世界獣医師会のOne Healthに関する国際会議が開催され、そこで採択された「福岡宣言」では、人獣共通感染症や薬剤耐性菌対策における医師と獣医師の連携の強化がうたわれています3)